梅雨空に紫陽花
「柴」
「はぁい。って、あれ?宗くんじゃないですかー。どうしたんですか?」
「宗くんはやめろ。はあ、……これ、母さんから」
「これはまさか……!お母様特製の無花果のケーキ……!」
「母の実家の方で無花果が沢山出来たからと送られてきたんだ。久し振りに作ったら作り過ぎたから柴に渡して来いと言われてな」
「わあ!嬉しいです!」
「本来なら職務中にこういったものを渡すわけにはいかないが、生ものだから仕方なく持ってきた」
「宗くんのそういう生真面目ながら臨機応変に動けるところ昔から嫌いじゃないですよ」
ではでは早速!と戸棚に置いてあるお皿とフォークを取り出して、私と宗くんの目の前に置く。
宗くんは仕方がないとばかりに椅子を引っ張ってきて座る。
包丁を取り出してそっと切り分ける私に、視線を感じた。
「なんですか?別に刺したりなんてしませんけど?」
「そんなことをする女じゃないと分かっている」
「じゃあ、どうしました?」
「……柴。お前、どうして蓮に興味を抱いた?」
「はい?なんのことです?」
加納くんに対して私が興味を抱いた?
一体どんな絵空事なんでしょうか。
「私と加納くんは、ただの教師と生徒ですよ」
「……そうか」
「宗くんは、相変わらずブラコンですねぇ」
「相変わらずとはなんだ。当たり前だろう。弟とは可愛いものだ」
お前だって居ただろう、お前にべったりな弟が。
そう言われて、ああ、と返す。
「仕事の関係で今あの子、他県に居るんですよねぇ」
「あの弟が耐えられるのか……」
「宗くんはうちの弟をなんだと思ってるんですか」
「シスコンだな」
「まあ、ちょっとお姉ちゃん大好きなところは認めますけど……」
苦笑しながら私は紅茶を淹れました。
お話しながらでも流れ作業のようにしっかりお茶の準備はしていたんですよ、これでも。
紅茶をカップに注いで、宗くんの前に出します。
宗くんはなんの戸惑いもなく飲みました。
「美味い」
「ふふ、それは良かったです」
眉間の皺が少しだけ和らいだ気がしました。
「昔を思い出すな」
「うん?どの程度昔ですか」
「高校の時だ」
「ああ、……まだ若かった頃ですねぇ」
「お前は年齢に恨みがあり過ぎだろう。まだ若い」
「同い年の宗くんに言われても説得力がないですよーだ」
「可愛げがない」
「宗くんに可愛く見られたいわけではないので」
「なら、誰に見られたいんだ」
「……別に、今は誰も居ませんけど」
紅茶を口に含んで、切り分けた無花果のケーキにフォークを入れれば宗くんは、可愛げがない、ともう一度言った。
私はそんな宗くんの名前を呼びます。
「宗くん」
「なんだ」
「肉じゃがが食べたいです」
「……何を一体俺は強請られているんだ」
「宗くんの作った肉じゃがが食べたいです」
言っていたら無性に食べたくなりました。
ええ、これはもう食べるしかないでしょう。
「近々お家に寄らせて頂きますね」
「……本当に、素直じゃないな。お前も、連も」
「なんのことでしょう?」
問題児に会いに行くのも仕事なんですよー、なんて返しながら。
私は甘い無花果のケーキを口に含みました。
脳裏に浮かぶのは、無邪気な笑みを浮かべながら何も映していない瞳。
「はぁい。って、あれ?宗くんじゃないですかー。どうしたんですか?」
「宗くんはやめろ。はあ、……これ、母さんから」
「これはまさか……!お母様特製の無花果のケーキ……!」
「母の実家の方で無花果が沢山出来たからと送られてきたんだ。久し振りに作ったら作り過ぎたから柴に渡して来いと言われてな」
「わあ!嬉しいです!」
「本来なら職務中にこういったものを渡すわけにはいかないが、生ものだから仕方なく持ってきた」
「宗くんのそういう生真面目ながら臨機応変に動けるところ昔から嫌いじゃないですよ」
ではでは早速!と戸棚に置いてあるお皿とフォークを取り出して、私と宗くんの目の前に置く。
宗くんは仕方がないとばかりに椅子を引っ張ってきて座る。
包丁を取り出してそっと切り分ける私に、視線を感じた。
「なんですか?別に刺したりなんてしませんけど?」
「そんなことをする女じゃないと分かっている」
「じゃあ、どうしました?」
「……柴。お前、どうして蓮に興味を抱いた?」
「はい?なんのことです?」
加納くんに対して私が興味を抱いた?
一体どんな絵空事なんでしょうか。
「私と加納くんは、ただの教師と生徒ですよ」
「……そうか」
「宗くんは、相変わらずブラコンですねぇ」
「相変わらずとはなんだ。当たり前だろう。弟とは可愛いものだ」
お前だって居ただろう、お前にべったりな弟が。
そう言われて、ああ、と返す。
「仕事の関係で今あの子、他県に居るんですよねぇ」
「あの弟が耐えられるのか……」
「宗くんはうちの弟をなんだと思ってるんですか」
「シスコンだな」
「まあ、ちょっとお姉ちゃん大好きなところは認めますけど……」
苦笑しながら私は紅茶を淹れました。
お話しながらでも流れ作業のようにしっかりお茶の準備はしていたんですよ、これでも。
紅茶をカップに注いで、宗くんの前に出します。
宗くんはなんの戸惑いもなく飲みました。
「美味い」
「ふふ、それは良かったです」
眉間の皺が少しだけ和らいだ気がしました。
「昔を思い出すな」
「うん?どの程度昔ですか」
「高校の時だ」
「ああ、……まだ若かった頃ですねぇ」
「お前は年齢に恨みがあり過ぎだろう。まだ若い」
「同い年の宗くんに言われても説得力がないですよーだ」
「可愛げがない」
「宗くんに可愛く見られたいわけではないので」
「なら、誰に見られたいんだ」
「……別に、今は誰も居ませんけど」
紅茶を口に含んで、切り分けた無花果のケーキにフォークを入れれば宗くんは、可愛げがない、ともう一度言った。
私はそんな宗くんの名前を呼びます。
「宗くん」
「なんだ」
「肉じゃがが食べたいです」
「……何を一体俺は強請られているんだ」
「宗くんの作った肉じゃがが食べたいです」
言っていたら無性に食べたくなりました。
ええ、これはもう食べるしかないでしょう。
「近々お家に寄らせて頂きますね」
「……本当に、素直じゃないな。お前も、連も」
「なんのことでしょう?」
問題児に会いに行くのも仕事なんですよー、なんて返しながら。
私は甘い無花果のケーキを口に含みました。
脳裏に浮かぶのは、無邪気な笑みを浮かべながら何も映していない瞳。