琥珀の瞳は三日月に歪む/寄稿作品
粘着系ストーカーが俺の家に居付いていて困っています。
なんて、唐突にはじめてみたは良いけれども、本当に困っている。
「ねえねえ、今日はちゅーしてくれないの?」
「断っておくと、今までに一度もちゅーしたことはないからな?」
「えー……けちんぼ」
「ぼそっと言うな、ぼそっと。誰がケチだ、お前のことを匿ってやってる俺の身にもなれ」
粘着系ストーカーこと目の前のソファーにごろんと寝転がっている男の名前はマモン。あれ? 何処かで聞いたことがあるかも、と思ったそこのアナタ。
目の前の男は悪魔である。しかもかなりの高位の大悪魔である。
悪魔? 何ファンタジックなこと言ってんだ? 頭大丈夫かお前? と思ったそこのアナタ。
俺だってそういう風に思いたかったけれども、仕方がない。何が仕方がないって?
何故なら俺の職業がエクソシストだからである。
え? エクソシストって悪魔狩る側じゃね? と思われたそこのアナタ。
ええ、その通りです。俺の仕事は悪魔を狩ることです。
なら何故俺の家で悪魔が我が家のように寛いでいるのかと言うと――
「トーマ。お前は僕のものなんだからね? 僕の為に生きて、死後は僕の元に嫁ぐ。それがきみの役目なんだよ?」
諭すようにそう言ってきたマモンに俺はすかさず突っ込んだ。
「いや。粘着系ストーカーが何言ってんだ?」
「僕はストーカーじゃないもん! トーマのコイビトだもん! あと粘着系ってナニソレ酷い!」
「神に仕える忠実なしもべのエクソシストの恋人が悪魔とか、お前が何言ってんだ」
「ぶー。……というか。トーマは僕と契約したから、そもそも『人間』という立ち位置なのかという観点で謎だよねぇ」
とはいえ、トーマが『人間』という立ち位置に居なければ、今現在僕という『悪魔』には認知されなかっただろうけれどもね。
「ふふ、トーマが人間で良かった」
語尾にハートマークでも付きそうな程の甘い声でマモンは言う。どろっとした蜂蜜と砂糖を煮て溶かしたような声に脳内が揺さぶられる。
粘着系ストーカーのくせに! 俺に変な術を使うな!
「ねえ、トーマ」
「なんだよ、ストーカー」
「僕はさぁ、トーマに好かれたいんだよね」
「まあ、お前俺の家に居付いてるくらいだもんな」
「んー。そういうことじゃないんだけどなぁ……」
マモンはそう言って、栗毛の髪を掻いた。まるでそういうことではないとでも言って……ああ、事実そう言ってたな。まあ、心底どうでも良いのだが。
マモンは俺のことが好きらしい。らしい、というのはしっかりとマモンからそういう言葉を貰ったことがないからである。
だから俺も何も言えない。こう言ってはなんだが、俺は結構、マモンのことを好ましく思っている。思っているだけで、ソレを口に出すことは恐らく一生ないと思ってもいるけれど。
正直な話、何処かで俺はマモンに好かれているという事実にあぐらをかいていたのかも知れない。
――とはいえ。コレは一体何が起きたって言うんだ?
なんて、唐突にはじめてみたは良いけれども、本当に困っている。
「ねえねえ、今日はちゅーしてくれないの?」
「断っておくと、今までに一度もちゅーしたことはないからな?」
「えー……けちんぼ」
「ぼそっと言うな、ぼそっと。誰がケチだ、お前のことを匿ってやってる俺の身にもなれ」
粘着系ストーカーこと目の前のソファーにごろんと寝転がっている男の名前はマモン。あれ? 何処かで聞いたことがあるかも、と思ったそこのアナタ。
目の前の男は悪魔である。しかもかなりの高位の大悪魔である。
悪魔? 何ファンタジックなこと言ってんだ? 頭大丈夫かお前? と思ったそこのアナタ。
俺だってそういう風に思いたかったけれども、仕方がない。何が仕方がないって?
何故なら俺の職業がエクソシストだからである。
え? エクソシストって悪魔狩る側じゃね? と思われたそこのアナタ。
ええ、その通りです。俺の仕事は悪魔を狩ることです。
なら何故俺の家で悪魔が我が家のように寛いでいるのかと言うと――
「トーマ。お前は僕のものなんだからね? 僕の為に生きて、死後は僕の元に嫁ぐ。それがきみの役目なんだよ?」
諭すようにそう言ってきたマモンに俺はすかさず突っ込んだ。
「いや。粘着系ストーカーが何言ってんだ?」
「僕はストーカーじゃないもん! トーマのコイビトだもん! あと粘着系ってナニソレ酷い!」
「神に仕える忠実なしもべのエクソシストの恋人が悪魔とか、お前が何言ってんだ」
「ぶー。……というか。トーマは僕と契約したから、そもそも『人間』という立ち位置なのかという観点で謎だよねぇ」
とはいえ、トーマが『人間』という立ち位置に居なければ、今現在僕という『悪魔』には認知されなかっただろうけれどもね。
「ふふ、トーマが人間で良かった」
語尾にハートマークでも付きそうな程の甘い声でマモンは言う。どろっとした蜂蜜と砂糖を煮て溶かしたような声に脳内が揺さぶられる。
粘着系ストーカーのくせに! 俺に変な術を使うな!
「ねえ、トーマ」
「なんだよ、ストーカー」
「僕はさぁ、トーマに好かれたいんだよね」
「まあ、お前俺の家に居付いてるくらいだもんな」
「んー。そういうことじゃないんだけどなぁ……」
マモンはそう言って、栗毛の髪を掻いた。まるでそういうことではないとでも言って……ああ、事実そう言ってたな。まあ、心底どうでも良いのだが。
マモンは俺のことが好きらしい。らしい、というのはしっかりとマモンからそういう言葉を貰ったことがないからである。
だから俺も何も言えない。こう言ってはなんだが、俺は結構、マモンのことを好ましく思っている。思っているだけで、ソレを口に出すことは恐らく一生ないと思ってもいるけれど。
正直な話、何処かで俺はマモンに好かれているという事実にあぐらをかいていたのかも知れない。
――とはいえ。コレは一体何が起きたって言うんだ?
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