『鬼灯堂』
彼女は素敵なヒトだと思う。
でも彼女に拘る理由は正直きっとないのだろう。
僕はこう言ってはなんだけれども、大層モテる。
だから、そう。彼女に拘る必要なんてない筈なのに。
「旭。今日は僕の可愛いヒトの元へと行かないの?」
「英智……お前も大概だな。やめとけって。前世でアイツがお前に何したか知らねぇけど、どうしてそこまで拘るんだ?」
「何をしたか、か……」
僕の可愛いヒトーーもとい、前世では妹背の仲だった彼女は僕に対して散々な呪いをかけた。
他の女の元へと行かせたり、僕の中にあった彼女を想う気持ちを奪ったり。
本当に、散々だ。そんなことされても、まだ彼女を好きで好きで愛している自分が居ることに信じられないほどには。
「ねぇ、旭。これは運命なんだよ」
「運命?」
「そう。彼女が居て、きみが居る。これは僕が望んだ運命だ」
自身の力で掴み取った最後の賭けだ。
この期を逃したら、もう彼女とも旭とも二度と出会えないだろう。
だから、そう。要は必死なんだよね。
「旭、僕はね、今も昔も彼女が好きだよ」
「それは何度も聞いたし飽きる程見て来たけどさ」
「でも、彼女は僕に出逢いたくなかったんだろうなぁ」
「え、」
「ああ、きみという存在を否定する気はないんだけどね?ただ本当に、彼女は二度と僕に出逢う気は無かったんだろうなぁって」
「……英智。お前、知らねぇの?」
「ん?何を?」
「……」
「旭?」
黙りこくってしまった旭に呼びかける。
旭は言うか言わまいか悩んだような顔をしながら、それでも言うことを決意したらしい。
「狐は、俺――いや、晴明が生まれ変わる度にお前を探してた」
「……え」
「とはいっても、この千年で生まれ変わったのは二回だけなんだけどな」
「それ、どういう……!」
「俺にじゃなくて狐に訊けばいいんじゃね?狐はきっと、本当のところお前には甘いんだからさ」
旭はそう言って「今日はお母さんの肉じゃが食べるから先に帰るなー!」と走り去っていった。
残された僕はというと心臓がどきどきと脈打つ。
今誰かに見られていたならばきっと、恋をしている情けない男の顔が見られたであろう。
「……葛葉」
名前を呼べばいとおしさが募り、彼女を想えば胸が熱くなる。
こんな思いをするのはどんな人生でも彼女だけなのだろう。
彼女だけが、僕の心を掻き乱す。
「ああ、本当に……」
好きだ、と思う。愛おしいと心が叫ぶ。
気が付いたら僕の足は彼女の居る『鬼灯堂』へと向かっていた。
今は何もかもをおいてもただ――彼女に逢いたかった。
でも彼女に拘る理由は正直きっとないのだろう。
僕はこう言ってはなんだけれども、大層モテる。
だから、そう。彼女に拘る必要なんてない筈なのに。
「旭。今日は僕の可愛いヒトの元へと行かないの?」
「英智……お前も大概だな。やめとけって。前世でアイツがお前に何したか知らねぇけど、どうしてそこまで拘るんだ?」
「何をしたか、か……」
僕の可愛いヒトーーもとい、前世では妹背の仲だった彼女は僕に対して散々な呪いをかけた。
他の女の元へと行かせたり、僕の中にあった彼女を想う気持ちを奪ったり。
本当に、散々だ。そんなことされても、まだ彼女を好きで好きで愛している自分が居ることに信じられないほどには。
「ねぇ、旭。これは運命なんだよ」
「運命?」
「そう。彼女が居て、きみが居る。これは僕が望んだ運命だ」
自身の力で掴み取った最後の賭けだ。
この期を逃したら、もう彼女とも旭とも二度と出会えないだろう。
だから、そう。要は必死なんだよね。
「旭、僕はね、今も昔も彼女が好きだよ」
「それは何度も聞いたし飽きる程見て来たけどさ」
「でも、彼女は僕に出逢いたくなかったんだろうなぁ」
「え、」
「ああ、きみという存在を否定する気はないんだけどね?ただ本当に、彼女は二度と僕に出逢う気は無かったんだろうなぁって」
「……英智。お前、知らねぇの?」
「ん?何を?」
「……」
「旭?」
黙りこくってしまった旭に呼びかける。
旭は言うか言わまいか悩んだような顔をしながら、それでも言うことを決意したらしい。
「狐は、俺――いや、晴明が生まれ変わる度にお前を探してた」
「……え」
「とはいっても、この千年で生まれ変わったのは二回だけなんだけどな」
「それ、どういう……!」
「俺にじゃなくて狐に訊けばいいんじゃね?狐はきっと、本当のところお前には甘いんだからさ」
旭はそう言って「今日はお母さんの肉じゃが食べるから先に帰るなー!」と走り去っていった。
残された僕はというと心臓がどきどきと脈打つ。
今誰かに見られていたならばきっと、恋をしている情けない男の顔が見られたであろう。
「……葛葉」
名前を呼べばいとおしさが募り、彼女を想えば胸が熱くなる。
こんな思いをするのはどんな人生でも彼女だけなのだろう。
彼女だけが、僕の心を掻き乱す。
「ああ、本当に……」
好きだ、と思う。愛おしいと心が叫ぶ。
気が付いたら僕の足は彼女の居る『鬼灯堂』へと向かっていた。
今は何もかもをおいてもただ――彼女に逢いたかった。