心臓の上に呪いが咲いた

今までのお話はほんの少しの断片的で簡単な序章に過ぎない。
愛した者との縁は紡がれず『運命』とやらに踊らされ。
『愛』とやらを抱いた好きでもない男に『愛される』だけの日々。

それはある意味、幸せだったのかもしれない。
けれど「あたし」はそれは不幸だと思った。
いつかあたしにも来る『呪い』だと分かっていても。
それでも、不幸だと思った。

「母様たち、良く燃えてるね」

「そうだね」

双子の兄が声を発する。
あたし達の目の前は真っ赤な炎。
この家での火葬場である塔の中はどれほどの温度になっているのだろうか?

『俺とアイツが共に在れる世界に行ったら、俺達のことを燃やしてくれ。離れないように。永遠に一緒に居られるように』

それが久し振りに顔を見た、ほとんど関わりになかった父の遺言で、母の意思はそこにはまったくなかったのだろう。
けれど命を奪われることを受け入れたと言うことは、きっと母は絆されたのだろうとも分かる。
この『呪われた運命』に。

あたしは自分が死ぬ運命なんて信じない。
運命にまだ出逢っていないからかも知れないけれども。
だからこそ殺されてたまるかと思うのだ。

「モミジ」

兄があたしの頭をそっと撫でた。
東国にある赤い木を連想する名前。
兄の目には炎に透ける銀の髪。紫水晶のような瞳。白い肌が映った。
それらはすべてこの『アーウィンク家』の『当主』たる資格を持つ者としての姿形だ。
あたしが母から受け継いだモノ。

「なぁに?カエデ」

東国ではモミジとカエデはとても似た樹木なのだそう。
母が一度だけこっそりと教えてくれた。

『私はその樹木がとても好きだから、だから二人に付けたのよ』

そう言って、白魚のような手で頭を撫でてくれた。
あまりにも遠い日の話だけれども。

「泣いてる」

「……泣いてないわよ」

「意地っ張り」

「カエデだって泣いてるくせに」

「うん。悲しいからね」

「……あたしも、カエデみたいに素直だったら良かったのかしら」

「モミジはそのままが素敵だと思うよ」

カエデのその言葉に、苦笑いを返す。
カエデは少々あたしに甘い節があるから。
こんな可愛げのない女の何処が素敵だと言うのだろうか。

「悲嘆に暮れているばかりではいられないわね」

「そうだね。モミジは今日から当主だし、僕ともあまり会えなくなっちゃうのかな」

「どうしてそうなるのよ。もちろん。手伝って貰うからね」

「ふふ。モミジならそう言うと思ってたよ」

微かに笑ったカエデはあたしの頭を一度撫でると、前を向く。
その顔が、瞳が、耳が、母様たちを映すことはない。
あたしは目を瞑り、そうして深呼吸をするとカエデと同じように前を見据えた。


眼前には燃えカスになってしまったあたし達を生んだ人達。
そこにはもう、何の感情もなかった。


――これはあたしが『運命』を変えようともがいた物語の序章に過ぎない。
けれどその『運命』を受け入れてしまった時。
あたしは一体、どんな顔をしているのかしらね?
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