太陽の光が強ければ強い程、その影はどんどん濃く、暗くなっていく。
　あなたがなんと言おうと、わたしにとってあなたは紛れもなく――太陽だった。

「まんばちゃんは綺麗だねぇ」
「……綺麗とか、言うな」
「本当のことを言って何か悪いことがあるのかな？」
「……そんな発言をするくらいなら、早く」

　その先をわたしは言わせなかった。まんばちゃんは眉根を顰めて苦しそうな顔をする。
　その表情すらも美しくて、わたしはうっそりと微笑んだ。
　ねえ、まんばちゃん。美しいモノには闇が付き纏うのだといつか言っていたね？　この状況はきっと、まんばちゃんにとって闇そのものだったのかも知れないね。
　でも、ごめんね？

「まんばちゃん、わたしはさ。まんばちゃんが傷付く未来があるならそれを変えたいんだよ」
「……それが、審神者としての道から外れると分かって居ても、アンタはそうするのか」
「そうするよ？」

　何を当然のことを聞くのだと思えば、まんばちゃんは殊更悲しそうに顔を歪めた。
　表情が豊かだねぇ、そんなところも美しい。

「まんばちゃんは、こんなわたしのこと斬る？」
「俺が、アンタを？」

　信じられないモノを見るような目でわたしを見るまんばちゃん。
　こんな状況になっても、まんばちゃんは自分を顕現したわたしのことを切り捨てられないのだ。可哀相に。
　切り捨てられたら、きっと。まんばちゃんはこれ以上傷付かないで済むのに。

「まんばちゃん」
「なんだ」
「まんばちゃんは、太陽みたいだね」
「……こんな血塗れの太陽が、あって堪るか」

　吐き捨てるように言うまんばちゃんは、それでもやはり美しい。
　わたしはこの美しい神様に心を奪われてしまったのだ。
　あまりにも神々しいその姿に、目を焼かれ、心を焼かれ、自制心すら――焼かれて消えてしまった。
　この本丸はわたしという人間を起点として淀んでいる。
　まだ正常だった頃に、わたしが顕現した刀達の怨念によって。
　何をしたか？　なんて、聞かなくても分かるかも知れないけれども。
　それでも口に出すならば、わたしは『山姥切国広』という美しい太陽を独り占めする為に、この本丸の刀を太陽の熱で溶かした。そのことに躊躇はなかった。
　きっとその頃にはもう、わたしという人間は狂っていたのだろう。
　山姥切国広という刀に、太陽に、神様に。
　この身は囚われ、狂わされ。
　それでも、これだけは分かる。
　もしも世界をやり直せると言われても。わたしはまた、同じことをするだろう。
　あなたを失う未来がそこにあるのだと言われて、わたしはそれを迎合できる程、強くはなかった。

「まんばちゃん」
「なんだ」

　廃墟のような本丸で、わたしとまんばちゃんは二人きり。この世界には他に誰も居ない。確かな賑やかさがそこにはあったはずなのに。もう、この本丸は二度と正常な働きをしないだろう。
　つい昨日、とうとう空間からも切り離された。何処にも辿り着けないし、何処にも行けやしない。
　いつかわたしが朽ち果てるまで、世界はわたしとまんばちゃんの二人きり。
　結構、幸せな世界だと思う。――わたしにとっては、だけれども。

「綺麗だねぇ」
「……そうか」

　何度も、何度も繰り返す、その言葉。きっとわたしは死ぬまで言い続けるのだろう。
　どれほどまんばちゃんのことを苦しめても、どれほどみんなに憎まれても。
　自分を照らす太陽にいつかその熱で焦がされたとしても、愚かな人間は血塗れの神様を手放すことなど出来ないのだから。