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【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加させて頂きました!
お題:ホットケーキ


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ふわふわに焼き上げたホットケーキに沢山の蜂蜜を掛け、フォークで一口大に切り、大事な宝物を扱うように口に運ぶ。
ふわり、と口の中に広がる甘くてたった一口で幸せになれる味に頬を緩ませる。
そんな私を見ていた恋人が一言。


「良くそんなもん食えんな」

「凄く美味しいよ?」


甘党な私と違って甘いものがとことん駄目な恋人は、私が食べているホットケーキを見て嫌そうに顔を歪ませる。
こんなに美味しいものが嫌いだなんて何て損な人生を送っているのだろうと、勝手なことを考えながら、また一口分を切り分け口に含んだ。
そして飲み込んだ後に、あ、と口を開く。


「そうだ」

「あ?なんだよ」

「ひろちゃんも食べてみればこの美味しさが伝わるんじゃないかな」

「ふざけてんのかテメェは」


名案だとばかりに告げた言葉は口許を引き攣らせた恋人から敢えなく却下された。


「食べてみればいいのに」

「そんなもん食うくらいなら俺は泥を食うわ」

「ああ。食べられる泥ってあるみたいだよね」

「そういうことを言ってんじゃねぇんだよ」


頭を抱え出した恋人に、それでもやっぱり食べてみれば案外美味しさに気付くものだと思うのになぁ、と内心で思うだけに留めておく。
これ以上言ったなら恋人の血圧が心配になる。
これでも一応は嫌がらせのような事を言っている自覚はあるのだ。


「でもさ、」

「んだよ。つうか食うか喋るかどっちかにしろ」


行儀の悪さを咎める恋人の言葉は無視して口を開く。


「甘いものが駄目なのに、こんなに美味しいホットケーキが焼けるんだからひろちゃんって凄いよね」

「……それはな、お前が焦がしまくって終いにゃ俺に泣き付いてきたせいだろ」

「でもでも、この前はチョコレートケーキとか作ってくれたじゃない?何か段々レベルアップしてない?」

「お前が作れもしない癖して「食いたい食いたい」って騒ぐから仕方なくだ」

「ふふふ」

「んだよ。気持ち悪い」

「いやだって」


大嫌いな食べ物を私が食べたいと騒いだら作ってくれる。
まあ、作っている時はマスクをしながら眉間に皺を寄せているけれど。
そんな恋人に毎回毎回惚れ直してしまうのは勿論だが、


「なんやかんや言いながら私を甘やかしてくれるひろちゃんが好きだなぁ、って思って」

「……あっそ」


そう言ってそっぽを向いてしまった恋人に、追い討ちを掛けるようなことはしない。
例え恋人の隠しきれていない耳が赤く染まっていようと、それを指摘したが最後暫くは口を訊いてくれなくなるだろうことを経験済みだ。
だから私は恋人が作ってくれたホットケーキを食べることに専念することにした。
蜂蜜をたっぷりと掛けたホットケーキは、恋人の愛情もたっぷりと入っているお陰か、どんなお店で食べるホットケーキよりも美味しくて、そしてとても甘く感じた。



【隠し味は愛情】
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