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【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加させて頂きました!
お題:優しいおわり
**
どんな剣や魔法でも切ることも燃やすことも出来ない頑丈な茨で覆われた塔の最上階。
そこに、彼女は居た。
正確には幽閉されていた。
かつては国一番とさえ謳われた兵士であった彼女は、毒を使う悪魔女を王の命令でその手に掛けたのだという。
その時に呪われたのだという。
『触れたものに毒を与える化け物』となる呪いを。
「はは。馬鹿げてるよねぇ」
「何がだ?というかお前、また来たのか」
彼女は塔に唯一ある窓の近くに置かれた椅子に座ってこちらを呆れたように見つめた。
「そりゃあ愛しの恋人にはいつだって会いたいからね」
「いや、お前とそんな関係になった覚えは微塵もないのだが」
「いいじゃん。別に、誰に咎められる訳でもないし」
「いや、思いっきり咎められるだろう。まさか『化け物』の恋人などと馬鹿なことを触れ回っているのではないだろうな」
「うん。勿論」
「それはどちらに対しての応えだ?」
「勿論恋人だって言ってるよって方かな」
「……お前はどうやら私が思っていた以上の馬鹿らしいな」
「ええ?どうして?ただキミを好きになった、それだけのことだろう」
「……私は『化け物』だ」
「キミは僕の愛しい人間だよ」
囁くように彼女に告げる。
彼女は怒りの感情をぶつけるように睨み付けてきた。
「『愛しい人間』?私に触れる真似事さえしないくせに?」
「なぁに。触れて欲しかったの?」
「……っ、そんなわけ」
「キミが触れて欲しいと願うなら、僕はキミに触れるよ。というか、いつだって僕はキミに触れたいと思ってる」
「っな、」
「ねえ?本当にキミに触れてもいいの?」
少し離れた場所に立っていた足を彼女に向けて進める。
彼女は怯えたように身体を揺らした。
それを見て、僕は笑う。
触れられたいと、温もりを感じたいと誰より願っているくせに。
どうしたってそれが叶わないと諦めて。
そうしてその願いが叶いそうになると途端に怯えて狼狽えて。
(本当に可愛いな)
なんて、そんなことを思う僕はかなりイカれているのだろう。
彼女に触れた者は誰であろうと死ぬ。
それはどんな魔術師や治癒師が魔術やら何やらを掛けても解けなかった、言うなれば末期の魔女が全てを込めた誰にも解けぬ呪いなのだろう。
そんなものに縛られて。
こんな所に引きこもらざる終えなかった可哀想な子。
それでもキミが望むなら、僕はいつだってキミに触れよう。
どう表現したら良いのかも分からないくらい愛しいキミに殺されるなら、本望だ。
「――でもね?」
彼女に一歩、近付いた。
もう数歩も歩けば彼女に触れられるだろう位置だ。
その距離を更に詰める。
「僕はキミに殺されたって構わない。それでも、キミを残して逝くのは嫌だ」
だから、
「僕に触れられたいと願った時、それはキミが死ぬときでもあると思っていてね?」
「……どうして」
「うん?」
「どうして、では、触れてはくれないのだ」
「それはキミが好きだからだよ。好きで、大好きで、とてもいとおしく思っているから、だから僕はキミに死んで欲しくない」
例えばそれがキミを苦しめたとしてもね?
僕はとても自分勝手な人間だから、キミを失いたくはないんだ。
「私が本当に願っていることを知っているくせに、それでもお前は私を好きだと言うのだな」
「そりゃあね?好きなんだからしょうがないでしょ」
それでも、もしもキミが僕以外の脅威に。
例えばキミを憐れんで生かした王族が、キミを厄介に思ってキミを殺すというような事態に万が一にでもなったなら。
「僕がその前にキミを抱き締めてあげる」
「……お前は、馬鹿か」
「はは。そんなこと言うの、君くらいだと思うなぁ」
これでも天才軍師なんて言われているからね。
そう笑って言ったなら、彼女は少し笑った。
滅多に見ない彼女の笑みに、少しだけ気分が高揚する。
「……本当か」
「ん?」
「さっき言ったことは、本当か」
窺うように、ともすれば何処か脅えたようにも見える彼女の言葉に、僕は口角を上げた。
「勿論」
その言葉に安心したように息を吐いた彼女に、内心で笑みを深める。
本当は。
末期の魔女の呪いなんてとっくに解けているのだと、彼女は知らない。
呪いを掛けられたその時から、彼女は誰にも触れることはなかったから。
だから知らない。
これから先も、死ぬまで彼女は自分が呪われた『化け物』であると思って生きるのだ。
(ごめんね?なんて思わないけど、)
だってそうでもしなければキミは僕なんて相手にしなかっただろう?
強く美しかったキミは、引く手数多でありながら王族に忠実な兵士であったから。
きっと呪われでもしなければ今でも王族の為に危険な任務をこなしていたのだろう。
だから、僕はキミを手に入れる為にほんの少しの仕掛けをした。
呪いを作る魔女を唆して虜にし、国王に「危険な魔女が居る」と進言したのだ。
お陰で彼女は僕の思惑通りに誰の目に触れられることも、関わることもなくなった。
せっせと通う僕に弱音すら吐くようになったのだ。
僕はとても自分本意な人間だから、キミを手に入れたくてしょうがなくなってしまったんだよ。
「でも、安心してね」
ぽつり、呟いた言葉に彼女は聞こえなかったのか首を傾げるだけ。
そんな彼女に僕はなんでもないよと笑う。
――本当にキミと僕を引き裂く存在が現れたなら、
(ちゃんと責任をとって、キミと死んであげるから)
それはきっとキミにとっては望んで止まないことで。
誰にとっても優しいおわりなのだろう。
それでもそれは、まだまだ先の話だ。
笑顔を浮かべる僕を不思議そうな顔で見つめる彼女に「そろそろお茶にしようか」と別な話を振った。
彼女との折角出来た時間はとびっきり楽しく過ごさなくては。
【仕組まれた幸せ】
お題:優しいおわり
**
どんな剣や魔法でも切ることも燃やすことも出来ない頑丈な茨で覆われた塔の最上階。
そこに、彼女は居た。
正確には幽閉されていた。
かつては国一番とさえ謳われた兵士であった彼女は、毒を使う悪魔女を王の命令でその手に掛けたのだという。
その時に呪われたのだという。
『触れたものに毒を与える化け物』となる呪いを。
「はは。馬鹿げてるよねぇ」
「何がだ?というかお前、また来たのか」
彼女は塔に唯一ある窓の近くに置かれた椅子に座ってこちらを呆れたように見つめた。
「そりゃあ愛しの恋人にはいつだって会いたいからね」
「いや、お前とそんな関係になった覚えは微塵もないのだが」
「いいじゃん。別に、誰に咎められる訳でもないし」
「いや、思いっきり咎められるだろう。まさか『化け物』の恋人などと馬鹿なことを触れ回っているのではないだろうな」
「うん。勿論」
「それはどちらに対しての応えだ?」
「勿論恋人だって言ってるよって方かな」
「……お前はどうやら私が思っていた以上の馬鹿らしいな」
「ええ?どうして?ただキミを好きになった、それだけのことだろう」
「……私は『化け物』だ」
「キミは僕の愛しい人間だよ」
囁くように彼女に告げる。
彼女は怒りの感情をぶつけるように睨み付けてきた。
「『愛しい人間』?私に触れる真似事さえしないくせに?」
「なぁに。触れて欲しかったの?」
「……っ、そんなわけ」
「キミが触れて欲しいと願うなら、僕はキミに触れるよ。というか、いつだって僕はキミに触れたいと思ってる」
「っな、」
「ねえ?本当にキミに触れてもいいの?」
少し離れた場所に立っていた足を彼女に向けて進める。
彼女は怯えたように身体を揺らした。
それを見て、僕は笑う。
触れられたいと、温もりを感じたいと誰より願っているくせに。
どうしたってそれが叶わないと諦めて。
そうしてその願いが叶いそうになると途端に怯えて狼狽えて。
(本当に可愛いな)
なんて、そんなことを思う僕はかなりイカれているのだろう。
彼女に触れた者は誰であろうと死ぬ。
それはどんな魔術師や治癒師が魔術やら何やらを掛けても解けなかった、言うなれば末期の魔女が全てを込めた誰にも解けぬ呪いなのだろう。
そんなものに縛られて。
こんな所に引きこもらざる終えなかった可哀想な子。
それでもキミが望むなら、僕はいつだってキミに触れよう。
どう表現したら良いのかも分からないくらい愛しいキミに殺されるなら、本望だ。
「――でもね?」
彼女に一歩、近付いた。
もう数歩も歩けば彼女に触れられるだろう位置だ。
その距離を更に詰める。
「僕はキミに殺されたって構わない。それでも、キミを残して逝くのは嫌だ」
だから、
「僕に触れられたいと願った時、それはキミが死ぬときでもあると思っていてね?」
「……どうして」
「うん?」
「どうして、では、触れてはくれないのだ」
「それはキミが好きだからだよ。好きで、大好きで、とてもいとおしく思っているから、だから僕はキミに死んで欲しくない」
例えばそれがキミを苦しめたとしてもね?
僕はとても自分勝手な人間だから、キミを失いたくはないんだ。
「私が本当に願っていることを知っているくせに、それでもお前は私を好きだと言うのだな」
「そりゃあね?好きなんだからしょうがないでしょ」
それでも、もしもキミが僕以外の脅威に。
例えばキミを憐れんで生かした王族が、キミを厄介に思ってキミを殺すというような事態に万が一にでもなったなら。
「僕がその前にキミを抱き締めてあげる」
「……お前は、馬鹿か」
「はは。そんなこと言うの、君くらいだと思うなぁ」
これでも天才軍師なんて言われているからね。
そう笑って言ったなら、彼女は少し笑った。
滅多に見ない彼女の笑みに、少しだけ気分が高揚する。
「……本当か」
「ん?」
「さっき言ったことは、本当か」
窺うように、ともすれば何処か脅えたようにも見える彼女の言葉に、僕は口角を上げた。
「勿論」
その言葉に安心したように息を吐いた彼女に、内心で笑みを深める。
本当は。
末期の魔女の呪いなんてとっくに解けているのだと、彼女は知らない。
呪いを掛けられたその時から、彼女は誰にも触れることはなかったから。
だから知らない。
これから先も、死ぬまで彼女は自分が呪われた『化け物』であると思って生きるのだ。
(ごめんね?なんて思わないけど、)
だってそうでもしなければキミは僕なんて相手にしなかっただろう?
強く美しかったキミは、引く手数多でありながら王族に忠実な兵士であったから。
きっと呪われでもしなければ今でも王族の為に危険な任務をこなしていたのだろう。
だから、僕はキミを手に入れる為にほんの少しの仕掛けをした。
呪いを作る魔女を唆して虜にし、国王に「危険な魔女が居る」と進言したのだ。
お陰で彼女は僕の思惑通りに誰の目に触れられることも、関わることもなくなった。
せっせと通う僕に弱音すら吐くようになったのだ。
僕はとても自分本意な人間だから、キミを手に入れたくてしょうがなくなってしまったんだよ。
「でも、安心してね」
ぽつり、呟いた言葉に彼女は聞こえなかったのか首を傾げるだけ。
そんな彼女に僕はなんでもないよと笑う。
――本当にキミと僕を引き裂く存在が現れたなら、
(ちゃんと責任をとって、キミと死んであげるから)
それはきっとキミにとっては望んで止まないことで。
誰にとっても優しいおわりなのだろう。
それでもそれは、まだまだ先の話だ。
笑顔を浮かべる僕を不思議そうな顔で見つめる彼女に「そろそろお茶にしようか」と別な話を振った。
彼女との折角出来た時間はとびっきり楽しく過ごさなくては。
【仕組まれた幸せ】