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【深夜の真剣文字書き60分一本勝負】に参加させて頂きました!
お題:救いはあるか
**
「この世界に価値があると、あなたは思いますか?」
「……は?」
「私は「ない」と思ってるんですよねー」
「……面白い冗談だな。お前は俺を殺しに来た。それがこの世界に価値があるという何よりの証拠だろう」
「いやいやー。そりゃー、そうなんですけど。でもですねー、“だからこそ”私はこの世界には価値がないと思うわけですよ」
「意味が分からんな」
「あはっ。私も本当のこと言っちゃうと意味なんて解ってないのかも知れないんですけどね」
でもですねー。
ここに来る前、城で魔王討伐なんていう恐ろしくも馬鹿らしい任を受けた時、思ったのですよー。
「人間って愚かだなーって。思っちゃったんですよー」
「だから、この世界に価値がないと?それなら何故お前はここに来た。そう思うなら任など他の者に任せたら良かったではないか」
「それがですねー、私こう見えて国で一番強い人間だったりするんですよね?生まれながらに魔力を要した人間って訳で訓練させられてたんです」
生まれてすぐに国のお偉い魔術師と名乗る男に連れられて、城の中に囲われた。
来る日も来る日も魔術の勉強をさせられた。その過程で魔物を殺す勉強もさせられた。
苦しいとか、辛いとか。
そういうのは特に対して感じたりはしなかった。
そんな感情は不要だと。
「お前はこの先魔王を殺す為だけの兵器として生きるのだから」と。
育て主である魔術師が嗤いながら言っていた。
「ま、そんなわけでほっぽって逃げる理由も、いや、それ以前に逃げる場所すら私にはなくてですねー。めんどくさいなーとか思いながらここまで来たって訳です」
そう魔王に独り言のように語ってみせれば、魔王は驚いたように目を見開いて、そうして憐れんだように目を伏せた。
おやまあ、
「隙だらけなんですけどー」
そんな私の呟きには答えずに、魔王は言葉を発する。
「貴様は、俺が死んだらどうなる?」
「? それはまた、可笑しな質問ですねー」
『魔王を殺す為だけの兵器』が魔王を倒せば、末路は一つに決まっているじゃないか。
「……お前に救いなどないということか」
「んー。まあ、そうなりますね」
何がどうしたって。
私に待つのは『死』だけ。
この世界に価値なんてない。
私の生きる世界に、私に、価値なんてないのだ。
「で。ここまで聞いたあなたは、私をどうしてくれるんですか?」
すんなり殺してくれますか?
それとも魔王らしく、甚振ってから殺してくれますか?
「俺を殺して、生きて逃げるという選択肢はないのか」
私の言葉に、可笑しそうに魔王は笑った。
それは幼子の言葉に仕方がないと言うような、どこか暖かさが含まれているような気がした。
「いやいやー。そりゃ私は魔力が高くて、人間としては最強ですよ?でも魔族の長に勝てるだなんて“誰も”思ってませんってー」
「……それが解っていて、それでもここに来たのか」
「それしか私には道が用意されてませんでしたからねー」
そう。
誰も私が魔王を倒せるだなんて本気で信じてはいなかった。
この先必ず異分子となるであろう芽を、ただ潰す為のただの大義名分なのだ。
解っていて、それでもその道に添うしかなかった。
それはある意味。
「私的にはね、世界がどうなろうと関係なかったりするんですよ。だってどう転んだって死んじゃいますし。でも、だから、」
少しだけ、
本当に、少しだけ、
「足掻いてみたかったのかもしれませんねー」
ふふっ、と笑えば、魔王は何かを考えるように瞼を一度閉じる。
そうして瞼を開け、私だけを見ると口を開いた。
「お前、俺の配下になるか?」
……何か、とてつもない言葉を聞いた気がした。
「聞き間違いですかねー?そうに決まってますよねー」
「かなり本気だが?」
「いや。いや、だって」
私、あなたを殺しに来たんですけど。
あまりのことに伺うようにそう言えば、知っていると頷かれた。
「お前がどう足掻いても死ぬ運命しかないと、そう言うなら。その命を俺が貰った所で何の不都合が生じる?」
まあ、人間にとっては驚異が増えるだろうが、そんなものは俺には関係ない。
「だからって、さすがにそんなことに頷けませんよー。私、一応あなたを討伐する人間なんですからー」
「お前程度の人間俺にとっては簡単に潰せる。それに万が一俺を殺せたとして、お前はどうなる?待っているのは同胞から与えられる終末だけだろう。なら、俺の配下になって存分に鍛えられた魔術を駆使すれば良い」
人手などいくらあっても構わんのだ。
そう言って笑った魔王に、ああ、これは決定事項の話をされているのだなと感じた。
ただそれは、今までのように用意された道を辿る訳ではなく。
きちんと、自分の意思で決めても構わないと。
「はは。でもやっぱり決定事項じゃないですかー」
自嘲するように笑った。
魔王は当然のことだろうと腕を組んで私を見下ろす。
ああ。
……ああ。
私はどうやら、生まれてから初めて、『自分の意思で決めて良いこと』を問われたらしい。
なんだこれは。
顔がにやける。
頬がだらしなく下がる。
「決まったようだな」
「……何言ってるんですかー。最初から決められていたじゃないですかー」
「知っているか?魔王というのは横暴らしいぞ」
「そうなんですかねー」
「側近に言われたんだ。間違いはない」
こんな会話をこの場所ですることになるとは全く以て思わなかった。
死ぬつもりでここに来たのに。
殺して貰う気でここに来たのに。
生かされる道を作られるとは。
この世界に価値はあるのかと、常々思っていた。
生かされて死ぬだけの世界に価値を見出だすなんて無理な話なのだが。
異分子一人を潰す為に人間一人を育てるこの世界に、救いはあるかとさえ思っていたのに。
存外。この世界は捨てたものではなかったらしい。
【死ぬ為に生かされていた少女は、生きる道を示された】
お題:救いはあるか
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「この世界に価値があると、あなたは思いますか?」
「……は?」
「私は「ない」と思ってるんですよねー」
「……面白い冗談だな。お前は俺を殺しに来た。それがこの世界に価値があるという何よりの証拠だろう」
「いやいやー。そりゃー、そうなんですけど。でもですねー、“だからこそ”私はこの世界には価値がないと思うわけですよ」
「意味が分からんな」
「あはっ。私も本当のこと言っちゃうと意味なんて解ってないのかも知れないんですけどね」
でもですねー。
ここに来る前、城で魔王討伐なんていう恐ろしくも馬鹿らしい任を受けた時、思ったのですよー。
「人間って愚かだなーって。思っちゃったんですよー」
「だから、この世界に価値がないと?それなら何故お前はここに来た。そう思うなら任など他の者に任せたら良かったではないか」
「それがですねー、私こう見えて国で一番強い人間だったりするんですよね?生まれながらに魔力を要した人間って訳で訓練させられてたんです」
生まれてすぐに国のお偉い魔術師と名乗る男に連れられて、城の中に囲われた。
来る日も来る日も魔術の勉強をさせられた。その過程で魔物を殺す勉強もさせられた。
苦しいとか、辛いとか。
そういうのは特に対して感じたりはしなかった。
そんな感情は不要だと。
「お前はこの先魔王を殺す為だけの兵器として生きるのだから」と。
育て主である魔術師が嗤いながら言っていた。
「ま、そんなわけでほっぽって逃げる理由も、いや、それ以前に逃げる場所すら私にはなくてですねー。めんどくさいなーとか思いながらここまで来たって訳です」
そう魔王に独り言のように語ってみせれば、魔王は驚いたように目を見開いて、そうして憐れんだように目を伏せた。
おやまあ、
「隙だらけなんですけどー」
そんな私の呟きには答えずに、魔王は言葉を発する。
「貴様は、俺が死んだらどうなる?」
「? それはまた、可笑しな質問ですねー」
『魔王を殺す為だけの兵器』が魔王を倒せば、末路は一つに決まっているじゃないか。
「……お前に救いなどないということか」
「んー。まあ、そうなりますね」
何がどうしたって。
私に待つのは『死』だけ。
この世界に価値なんてない。
私の生きる世界に、私に、価値なんてないのだ。
「で。ここまで聞いたあなたは、私をどうしてくれるんですか?」
すんなり殺してくれますか?
それとも魔王らしく、甚振ってから殺してくれますか?
「俺を殺して、生きて逃げるという選択肢はないのか」
私の言葉に、可笑しそうに魔王は笑った。
それは幼子の言葉に仕方がないと言うような、どこか暖かさが含まれているような気がした。
「いやいやー。そりゃ私は魔力が高くて、人間としては最強ですよ?でも魔族の長に勝てるだなんて“誰も”思ってませんってー」
「……それが解っていて、それでもここに来たのか」
「それしか私には道が用意されてませんでしたからねー」
そう。
誰も私が魔王を倒せるだなんて本気で信じてはいなかった。
この先必ず異分子となるであろう芽を、ただ潰す為のただの大義名分なのだ。
解っていて、それでもその道に添うしかなかった。
それはある意味。
「私的にはね、世界がどうなろうと関係なかったりするんですよ。だってどう転んだって死んじゃいますし。でも、だから、」
少しだけ、
本当に、少しだけ、
「足掻いてみたかったのかもしれませんねー」
ふふっ、と笑えば、魔王は何かを考えるように瞼を一度閉じる。
そうして瞼を開け、私だけを見ると口を開いた。
「お前、俺の配下になるか?」
……何か、とてつもない言葉を聞いた気がした。
「聞き間違いですかねー?そうに決まってますよねー」
「かなり本気だが?」
「いや。いや、だって」
私、あなたを殺しに来たんですけど。
あまりのことに伺うようにそう言えば、知っていると頷かれた。
「お前がどう足掻いても死ぬ運命しかないと、そう言うなら。その命を俺が貰った所で何の不都合が生じる?」
まあ、人間にとっては驚異が増えるだろうが、そんなものは俺には関係ない。
「だからって、さすがにそんなことに頷けませんよー。私、一応あなたを討伐する人間なんですからー」
「お前程度の人間俺にとっては簡単に潰せる。それに万が一俺を殺せたとして、お前はどうなる?待っているのは同胞から与えられる終末だけだろう。なら、俺の配下になって存分に鍛えられた魔術を駆使すれば良い」
人手などいくらあっても構わんのだ。
そう言って笑った魔王に、ああ、これは決定事項の話をされているのだなと感じた。
ただそれは、今までのように用意された道を辿る訳ではなく。
きちんと、自分の意思で決めても構わないと。
「はは。でもやっぱり決定事項じゃないですかー」
自嘲するように笑った。
魔王は当然のことだろうと腕を組んで私を見下ろす。
ああ。
……ああ。
私はどうやら、生まれてから初めて、『自分の意思で決めて良いこと』を問われたらしい。
なんだこれは。
顔がにやける。
頬がだらしなく下がる。
「決まったようだな」
「……何言ってるんですかー。最初から決められていたじゃないですかー」
「知っているか?魔王というのは横暴らしいぞ」
「そうなんですかねー」
「側近に言われたんだ。間違いはない」
こんな会話をこの場所ですることになるとは全く以て思わなかった。
死ぬつもりでここに来たのに。
殺して貰う気でここに来たのに。
生かされる道を作られるとは。
この世界に価値はあるのかと、常々思っていた。
生かされて死ぬだけの世界に価値を見出だすなんて無理な話なのだが。
異分子一人を潰す為に人間一人を育てるこの世界に、救いはあるかとさえ思っていたのに。
存外。この世界は捨てたものではなかったらしい。
【死ぬ為に生かされていた少女は、生きる道を示された】