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小説企画『ライト』さまに参加させていただきました!
お題:純粋
**
『あれ?理桜くん?どうしたの、暗い顔してる』
五つ上の幼馴染み。
お隣のお姉さんだった桜はボクが赤ちゃんの頃から面倒を良く見てくれていた。
その日も仕事が忙しい両親に代わって、部活に入っていなかった桜の家に何時ものように遊びに来た時だった。
桜が心配そうな顔でボクの顔を覗き込む。
ボクは話そうか迷って、けれどぽつりと零した。
『ボクの名前、女みたいだって皆が笑うんだ』
からかいの延長戦上みたいなものだと分かっていた。
分かっていたけど、恥ずかしくて、何も言い返せなかった。
『うーん。理桜くんの名前は素敵な名前だと思うけどなー。理桜くんは自分の名前、嫌い?』
『……わかんない』
『そっかぁ。でも私は理桜くんの名前、好きだよ。私とおんなじ“桜”が入ってる』
お揃いだから嬉しいの。
そう笑った桜の笑顔が、輝いて見えたのは何でだろう。
心臓がドキドキと煩くて、悩んでいたことが嘘みたいに吹っ飛んでどうでも良くなった。
『桜は嬉しいんだ』
『うん。凄く』
優しい笑顔。
いつもと同じ、ボクのことを弟みたいだと言う笑顔。
煩かった心臓は、途端にきゅうっと締め付けられるように苦しくなった。
何だろう?と首を傾げながら、心臓の辺りを服の上から掴むように押さえ付けた。
それから五年。
あの時の気持ちは、わりとハッキリとした形となってオレの胸の中に存在するようになった。
「桜!」
「あれ、理桜くん?どうしたの?」
「桜を見付けたから」
そう言えば桜は嬉しそうに笑ってオレの頭を撫でた。
「三鈴?誰、その子」
「お隣の子。可愛いでしょ」
誇らしげに胸を張る桜に、桜の隣に並んで歩いていた男は、へえ、と漏らしてオレに笑い掛けてきた。
「こんにちは。りおくん?」
「こんにちは!」
桜の腰に腕を巻き付けたまま、男に挨拶をする。
男は少しだけひくりと頬を引き攣らせていた。
あーあ。駄目だよ。そんな分かりやすい顔しちゃ。
桜に変に思われたらどうするの?
「りおくん?そのままだと三鈴が苦しいだろうから離れた方がいいんじゃないかな?」
「桜、苦しい?」
上目遣いで桜を見上げれば、桜は首を緩く振って苦しくないよと告げる。
男の頬が、また引き攣った。
「そっか!じゃあ桜!帰ろうよ!今日は桜がおやつ作ってくれたんでしょ?早く食べたいなー」
「理桜くんは食欲旺盛だねぇ。いいよ、帰ろうか。佐藤くん。また明日ね」
「ああ、うん。また明日」
「またね、佐藤さん」
ニッコリ笑って男に手を振れば、引き攣った顔で手を振り返してくれた。
成る程。今までの男よりオレのことを敵認識するだけの本能はあるんだね。
まあ、桜の隣を譲るつもりは更々ないけど。
「ね、桜。あの人桜の彼氏?」
「まさか!帰り道がね、同じみたいで良く一緒になるだけだよ」
「ふぅん。そっかぁ」
「ふふ。理桜くんもそういうことに敏感なお年頃なんだね」
「そうだね」
少なくとも桜よりは敏感な方だと思うよ、と心の中で思いながら桜の手を引く。
「ね?それより早く帰ろう?オレお腹空いちゃった」
「そうだね。早く帰ろうか」
クスクスと口元に手を充てて笑う桜の眼差しは優しい。
手の掛かる弟を見るような、そんな眼差し。
それに悔しい思いはするけれど、そんなことはおくびにも出さずにオレも笑う。
桜がオレのことを弟扱いするの何て今更だし、今はまだ、その位置に甘んじていてもいい。
桜がオレのことを意識してくれるまでまだまだ時間はある。
桜が他の男に目をやる隙は与えないからゆっくり待てばいい。
勿論。攻める気がないわけではないから桜にも覚悟して貰うつもりだけれど。
「ね、桜。大きくなったらオレと結婚してね?」
この気持ちに気付いた時から言っている言葉。
桜の返事は決まっている。
「ふふ。いいよ。理桜くんみたいな格好良い旦那様なら私も嬉しいなぁ」
「オレは本気だからね。嘘じゃないよ」
「はいはい。分かってるよー」
全然分かってない返事に唇を尖らせれば、桜は慌てて今日のおやつの話をし始める。
宥めてるつもりなのかな?
だとしたら逆効果なんだけど、まあ、そんな桜も可愛いからいいか。
それにオレが欲しいのは、桜がオレの言葉に嘘でも了承したという証だしね。
「早く大きくなりたいなぁ」
「ふふ。直ぐ大きくなっちゃうよ」
「そうかな?そうだったら良いなぁ」
そうしたら、桜を早くオレのモノに出来るからね。
「大好きだよ。桜」
「私も理桜くんのこと大好きだよー」
……ま、今はこれで我慢しようか。
早く大きくなればいいだけの話だしね。
ニッコリと笑って、桜の指にオレの指を絡めて所謂恋人繋ぎをする。
桜は子供のすることだと気にしない。
今はまだ、我慢する。
でももっと大きく。
桜をすっぽり抱き締められるくらい大きくなったなら、容赦はしないからね?
子供らしからぬ感情は無邪気な笑顔の裏に隠して、桜の家になるだけゆっくりとした歩調で帰った。
お題:純粋
**
『あれ?理桜くん?どうしたの、暗い顔してる』
五つ上の幼馴染み。
お隣のお姉さんだった桜はボクが赤ちゃんの頃から面倒を良く見てくれていた。
その日も仕事が忙しい両親に代わって、部活に入っていなかった桜の家に何時ものように遊びに来た時だった。
桜が心配そうな顔でボクの顔を覗き込む。
ボクは話そうか迷って、けれどぽつりと零した。
『ボクの名前、女みたいだって皆が笑うんだ』
からかいの延長戦上みたいなものだと分かっていた。
分かっていたけど、恥ずかしくて、何も言い返せなかった。
『うーん。理桜くんの名前は素敵な名前だと思うけどなー。理桜くんは自分の名前、嫌い?』
『……わかんない』
『そっかぁ。でも私は理桜くんの名前、好きだよ。私とおんなじ“桜”が入ってる』
お揃いだから嬉しいの。
そう笑った桜の笑顔が、輝いて見えたのは何でだろう。
心臓がドキドキと煩くて、悩んでいたことが嘘みたいに吹っ飛んでどうでも良くなった。
『桜は嬉しいんだ』
『うん。凄く』
優しい笑顔。
いつもと同じ、ボクのことを弟みたいだと言う笑顔。
煩かった心臓は、途端にきゅうっと締め付けられるように苦しくなった。
何だろう?と首を傾げながら、心臓の辺りを服の上から掴むように押さえ付けた。
それから五年。
あの時の気持ちは、わりとハッキリとした形となってオレの胸の中に存在するようになった。
「桜!」
「あれ、理桜くん?どうしたの?」
「桜を見付けたから」
そう言えば桜は嬉しそうに笑ってオレの頭を撫でた。
「三鈴?誰、その子」
「お隣の子。可愛いでしょ」
誇らしげに胸を張る桜に、桜の隣に並んで歩いていた男は、へえ、と漏らしてオレに笑い掛けてきた。
「こんにちは。りおくん?」
「こんにちは!」
桜の腰に腕を巻き付けたまま、男に挨拶をする。
男は少しだけひくりと頬を引き攣らせていた。
あーあ。駄目だよ。そんな分かりやすい顔しちゃ。
桜に変に思われたらどうするの?
「りおくん?そのままだと三鈴が苦しいだろうから離れた方がいいんじゃないかな?」
「桜、苦しい?」
上目遣いで桜を見上げれば、桜は首を緩く振って苦しくないよと告げる。
男の頬が、また引き攣った。
「そっか!じゃあ桜!帰ろうよ!今日は桜がおやつ作ってくれたんでしょ?早く食べたいなー」
「理桜くんは食欲旺盛だねぇ。いいよ、帰ろうか。佐藤くん。また明日ね」
「ああ、うん。また明日」
「またね、佐藤さん」
ニッコリ笑って男に手を振れば、引き攣った顔で手を振り返してくれた。
成る程。今までの男よりオレのことを敵認識するだけの本能はあるんだね。
まあ、桜の隣を譲るつもりは更々ないけど。
「ね、桜。あの人桜の彼氏?」
「まさか!帰り道がね、同じみたいで良く一緒になるだけだよ」
「ふぅん。そっかぁ」
「ふふ。理桜くんもそういうことに敏感なお年頃なんだね」
「そうだね」
少なくとも桜よりは敏感な方だと思うよ、と心の中で思いながら桜の手を引く。
「ね?それより早く帰ろう?オレお腹空いちゃった」
「そうだね。早く帰ろうか」
クスクスと口元に手を充てて笑う桜の眼差しは優しい。
手の掛かる弟を見るような、そんな眼差し。
それに悔しい思いはするけれど、そんなことはおくびにも出さずにオレも笑う。
桜がオレのことを弟扱いするの何て今更だし、今はまだ、その位置に甘んじていてもいい。
桜がオレのことを意識してくれるまでまだまだ時間はある。
桜が他の男に目をやる隙は与えないからゆっくり待てばいい。
勿論。攻める気がないわけではないから桜にも覚悟して貰うつもりだけれど。
「ね、桜。大きくなったらオレと結婚してね?」
この気持ちに気付いた時から言っている言葉。
桜の返事は決まっている。
「ふふ。いいよ。理桜くんみたいな格好良い旦那様なら私も嬉しいなぁ」
「オレは本気だからね。嘘じゃないよ」
「はいはい。分かってるよー」
全然分かってない返事に唇を尖らせれば、桜は慌てて今日のおやつの話をし始める。
宥めてるつもりなのかな?
だとしたら逆効果なんだけど、まあ、そんな桜も可愛いからいいか。
それにオレが欲しいのは、桜がオレの言葉に嘘でも了承したという証だしね。
「早く大きくなりたいなぁ」
「ふふ。直ぐ大きくなっちゃうよ」
「そうかな?そうだったら良いなぁ」
そうしたら、桜を早くオレのモノに出来るからね。
「大好きだよ。桜」
「私も理桜くんのこと大好きだよー」
……ま、今はこれで我慢しようか。
早く大きくなればいいだけの話だしね。
ニッコリと笑って、桜の指にオレの指を絡めて所謂恋人繋ぎをする。
桜は子供のすることだと気にしない。
今はまだ、我慢する。
でももっと大きく。
桜をすっぽり抱き締められるくらい大きくなったなら、容赦はしないからね?
子供らしからぬ感情は無邪気な笑顔の裏に隠して、桜の家になるだけゆっくりとした歩調で帰った。