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小説企画『ライト』さまに参加させていただきました!
お題:一歩




「オヒメサマ。今日のお加減は如何っすか?」

「昨日よりは良いわよ」


へらり、笑えば「嘘つきっすね」と額に掌を宛てられた。
剣を握る彼の手は武骨で大きくて、ひんやりとしているのに暖かい。
うっとりと瞼を閉じれば、やっぱり嘘だったと笑う気配を感じた。



「熱、ありますね。てなことで今日も外には出られません」

「大丈夫よ。このくらい、何時ものことだわ」

「いやいや、アンタに倒れられたら困るのはオレなんで」


困ったように眉を下げる彼にぷくっと頬を膨らませた。
この程度の熱、本当に大したことなんてない。
生まれつき身体が弱い私にとっては、常に弱った状態だと言ってもいいくらい。
だからこのくらいで外出禁止だと言う彼の言葉には異論しかない。


(こんなんじゃ何時まで経っても外に出られないじゃない)


生まれてから知っている世界は城と自室と庭くらい。
その殆どを自室で過ごしている私にとって、庭ですら物珍しい場所だと言えよう。


「むくれない」

「むくれてないわ」

「じゃあ、拗ねてるんすか?」

「……拗ねてもないわ」


ただ、病弱なこの身体が酷く煩わしい。



「ただ、一度くらいは自由に外に出たいものね」

「だったら早く熱下げてくださいね」

「だから、この程度熱じゃないわ」


言い返せば、また笑われた。
年上で、外の世界を沢山知っている彼は私をまるで子供のように扱う。
それが悔しい。
線引きをされているような気分だ。
その線の先に、私は行きたいのに。
彼の隣に並んで、外を自由に。


(そんなの夢物語だって、分かってるけど)


毎日毎日、自室のベッドの上で過ごすだけの日々を繰り返すだけの人生なんて、嫌で嫌でしょうがない。


「オヒメサマ。今日も薔薇園から薔薇を摘んできますから、今日はそれで勘弁してください」

「……分かったわ」


納得だなんてしていない。
けれどこれ以上彼を困らせてしまえば、更に子供扱いをされるのが目に見えている。
だから大人しく従う。
起こしていた身体をふかふかの布団に沈めれば、良い子と頭を撫でられた。
だから子供扱いは止めて欲しいのに。


「オレが薔薇を摘んでくるまでに薬飲んどいてくださいね」

「分かってるわよ」

「隠してもすぐ分かるんだから、残しても無駄っすからね」


以前、あまりに苦い薬を飲むのが嫌で隠して捨てたことを言っているのか。


「子供の頃の話だわ」

「オヒメサマは今でも子供ですよ」


人を傷付けながら、私を守る手で髪を撫でられる。
この大きな手が私は好きだ。


「じゃあオレ行きますね」


ちゃんと薬飲むんですよー、と念押しされて彼は部屋の外へと出ていった。
そうしたらもう一人きり。
ベッドの中で膝を抱えるようにして踞る。
一人で部屋の外に出ることを許されていないからやることが無くて暇だ。


(まるで隔離されてるみたい)


みたい、じゃなくて、隔離されているのだろうけれども。
ぽんぽんと撫でられた髪を掌で軽く撫でる。
まるで幼子が親を求めるかのような行為だと、自嘲した。


「……早く帰ってこないかしら」


まだ出て行って間もないのにそんなことを思ってしまう。


あと一歩。踏み出したなら。
私と彼の間に引かれたこの境界線は一体どうなるのだろう。


そんなことを思いながら、瞼を閉じた。
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