過去拍手お礼文

胸が苦しくなって、痛くて、悲しくて、切なくて、堪らない。
こんな感情なら要らないと僕は思うのに、決して離したくはないとも思うんだ。

「——」

誰かの名前を呼ぶ。誰かは分からない。
けれども確かにその人は大切な人だった。
いや、今でもきっと——


ハッと目が覚めた先で鼻孔をついたのは、心地好い香り。
紅い天井も同時に目に入る。どうやら眠っていたらしい。

「僕は……」

「お前様らしくもない。夢魔に侵されておったぞ」

「……夢魔。……嗚呼、助けてくれたんだね」

「誰もその様なことは言っておらんわい。こんな時間まで居るからこうなるんじゃ。さっさと家に帰れ小僧」

「ふふ。ねぇ、葛葉」

「——小僧如きがその名を呼ぶな」

「今は彼も居ないし、良いじゃない。少しくらい、昔を思い出してもさ」

「ふん。お前様はとんと読めぬ男よな。……昔から、わけが分からぬわい」

「ねえ、葛葉」

「だから、」

こんなに近くに居るのに。

どうして僕は彼女を求めてやまないのだろう。
どうして僕は彼女だけを求められないのだろう。

何かを言いたそうにして口を開きかけた葛葉の唇に、僕の男にしては白い指を押し付けた。

「こんなに想って居るのにね?」

悲しいね。
呪いというのは、悲しいね。
きみが僕に心を返してくれないから。
僕の想いはいつだって、きみの心には届かない。
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