過去拍手お礼文

八時間待った。
別に雨の中を待っていた訳でも、酷暑の中に待っていた訳でもない。
肌寒さを感じる程度の公園で、ベンチに座りながら待っていただけだ。


(これが答えなのかな)


五年付き合った恋人は随分な浮気性で、正直良くもまあ、五年も続いていたなと感心したのは記憶に新しい。
その恋人と今日、会う約束をしていた。
五年目の記念日だからと張り切っていた恋人に、私は果たして笑えていただろうか?
どうせまたすっぽかされる。
一年目の記念日から今までずっと、一緒にお祝いをしたことがないのだから。
私の誕生日でさえ他の女と過ごしていたのだから信じられる訳もなかった。
恋人を信じるということはイコールで裏切られるということだから。


「……今日は絶対私を優先させるって、自分で言ったクセに」



膝の上で握り締めた手の甲の上に、ぽたり、涙が落ちた。
可笑しいな。泣いて泣いて、枯らした筈なのに。


「……もう、」


限界、かな。


ベンチに座りっぱなしだった為かふらつく足で立ち上がると、メールを作成する。
それからすぐ側にあった噴水に携帯を投げ込んだ。
五年前に買った、恋人とお揃いの携帯電話。型の古いソレを新し物好きの恋人も持っていてくれた。
まあ、浮気相手用のスマホを持っていた事も知っているけれど。
嬉しかったし、多分、縋ってもいた。


それを今、棄てた。
気持ち事全部はさすがに無理だったけれど、幾分かスッキリした。
鞄を持って、慣れないヒールの高い靴を鳴らして、出口に向かって公園の中を歩く。


悲しくない訳ではないけれど、いつまでも引き摺ってなんていられないから。
だから早く家に帰ろう。
そうして泣こう。
思う存分。今までの悲しさや嫉妬を流してしまおう。

だから最後に、この一言くらいは許して欲しい。



「……好き、だったよ」



開いた口の中に塩気を感じて、思わず顔をしかめた。
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