過去拍手お礼文
跪いて、貴女の小さな足を掌に乗せる。
そうっと靴を脱がせれば可愛らしい靴に似合いの白いレースの付いた靴下。
その靴下を脱がせると更に普段は見ることの出来ない素足を晒す。
5本の指が拒絶をするようにピクリと動いた。
宥めるように足を持った手の親指で撫で付け、形のよい小さな爪の付いた真白い爪先に唇を寄せると、そのまま音もなく口付ける。
「お嬢様に永久の忠誠をお誓いします」
「…っそれが貴方の答えってわけ?だから諦めろって?」
口付けたままの体勢でそう言えば、お嬢様が苦々しい声でそう口にした。
「私はお嬢様の執事です。お嬢様の幸せを望むのが執事の役目ですから」
「…っ」
唇を爪先から離してお嬢様を見上げれば、ぎゅっと唇を噛み締めて何かに耐えるような顔をするお嬢様。
私はお嬢様に微笑み掛ける事しか出来ない。
本当は。お嬢様が望まれている事を今直ぐにでも叶えて差し上げたい。
けれどお嬢様にお仕えする執事として、この感情は不相応だ。お嬢様の為には一切ならない。むしろ、邪魔になるだろう。
そう思ったからこそ、この想いを告げる事は出来ない。
幼少の頃。初めてお嬢様にお会いした時に心を奪われた。
こんなにも可憐な方にお仕え出来るのかと、涙が溢れそうな程に歓喜した。
――それが、今では何よりも憎むべき関係性だと云うのだから、笑えるものだ。
(ずるいですね、私は)
執事としての自分を何より疎んじている癖に。
執事である事を理由にお嬢様の直ぐ側に居られる権利を得ているのだから。
少々我が儘に育ってしまったけれど、心根は出逢った時より変わらずお優しいお嬢様は、きっと自分の気持ちを受け入れられなかったからといって私を側付きの執事から外すことはないだろう。
お嬢様の優しさを利用して、私はあくまでも主人に忠実な執事として側に寄るのだ。
あまりにも浅ましく、強欲だと思わないか?
「私が貴方の主人じゃなかったら、貴方は私を好きになってくれたの?」
「お嬢様。滅多な事は言わないで下さい。私はお嬢様の執事で在れて、とても幸せなのですから」
今にも泣きそうなお嬢様にニコリと微笑む。
お嬢様の綺麗な瞳が潤む。
けれど主人というプライドからなのか、涙を零す事はない。
「お嬢様、どうか暗い顔を為さらないで下さい。どのようなお顔でもお嬢様はお可愛らしいですが、やはりお嬢様には笑顔が一番、お似合いですよ」
「……貴方がそれを言うのね」
へにょりと眉を下げたお嬢様は俯いて膝を抱えてしまった。
「しばらく部屋から出てって」
「畏まりました」
礼をしてお嬢様の部屋から退出する。
私が退出した直ぐ後に、虫の吐息のような泣き声が聞こえた。
そんなお嬢様さえ愛しくて。
けれど泣かせたい訳では無かったのだと今更な後悔が襲い来て、逃げるようにお嬢様の部屋から遠ざかった。
無心に歩いた塵一つない廊下の端。
今の時間帯は誰も来ないだろうその場所の、品良く纏められた花が生けられた花瓶の側で壁に背を付ける。
そうして先程お嬢様に触れた唇に指を這わせ、ポツリと呟いた。
「貴女を、」
――貴女をこの手で拐ってしまえたなら、どれだけ、
「……いけませんね。『お嬢様の執事』が、そのような事を思っては」
私の立場では、お嬢様と添い遂げる夢を見ることすら罪だから。
今にも浮上してしまいそうな想いに固く封をして、二度と表に出てこないようにしなければ。
「そうしなければ、貴女の側に居られなくなってしまう…」
私が貴女に誓える感情はただ一つ。
貴女に対しての揺るぎない『忠誠』だけ。
それだけだから。
震える貴女の身体を抱き締めたがったこの腕から、全てを捨ててしまおうと思ったこの心から、目を逸らして。
次に会った時には何事も無かったかのように振る舞うのだ。
そうっと靴を脱がせれば可愛らしい靴に似合いの白いレースの付いた靴下。
その靴下を脱がせると更に普段は見ることの出来ない素足を晒す。
5本の指が拒絶をするようにピクリと動いた。
宥めるように足を持った手の親指で撫で付け、形のよい小さな爪の付いた真白い爪先に唇を寄せると、そのまま音もなく口付ける。
「お嬢様に永久の忠誠をお誓いします」
「…っそれが貴方の答えってわけ?だから諦めろって?」
口付けたままの体勢でそう言えば、お嬢様が苦々しい声でそう口にした。
「私はお嬢様の執事です。お嬢様の幸せを望むのが執事の役目ですから」
「…っ」
唇を爪先から離してお嬢様を見上げれば、ぎゅっと唇を噛み締めて何かに耐えるような顔をするお嬢様。
私はお嬢様に微笑み掛ける事しか出来ない。
本当は。お嬢様が望まれている事を今直ぐにでも叶えて差し上げたい。
けれどお嬢様にお仕えする執事として、この感情は不相応だ。お嬢様の為には一切ならない。むしろ、邪魔になるだろう。
そう思ったからこそ、この想いを告げる事は出来ない。
幼少の頃。初めてお嬢様にお会いした時に心を奪われた。
こんなにも可憐な方にお仕え出来るのかと、涙が溢れそうな程に歓喜した。
――それが、今では何よりも憎むべき関係性だと云うのだから、笑えるものだ。
(ずるいですね、私は)
執事としての自分を何より疎んじている癖に。
執事である事を理由にお嬢様の直ぐ側に居られる権利を得ているのだから。
少々我が儘に育ってしまったけれど、心根は出逢った時より変わらずお優しいお嬢様は、きっと自分の気持ちを受け入れられなかったからといって私を側付きの執事から外すことはないだろう。
お嬢様の優しさを利用して、私はあくまでも主人に忠実な執事として側に寄るのだ。
あまりにも浅ましく、強欲だと思わないか?
「私が貴方の主人じゃなかったら、貴方は私を好きになってくれたの?」
「お嬢様。滅多な事は言わないで下さい。私はお嬢様の執事で在れて、とても幸せなのですから」
今にも泣きそうなお嬢様にニコリと微笑む。
お嬢様の綺麗な瞳が潤む。
けれど主人というプライドからなのか、涙を零す事はない。
「お嬢様、どうか暗い顔を為さらないで下さい。どのようなお顔でもお嬢様はお可愛らしいですが、やはりお嬢様には笑顔が一番、お似合いですよ」
「……貴方がそれを言うのね」
へにょりと眉を下げたお嬢様は俯いて膝を抱えてしまった。
「しばらく部屋から出てって」
「畏まりました」
礼をしてお嬢様の部屋から退出する。
私が退出した直ぐ後に、虫の吐息のような泣き声が聞こえた。
そんなお嬢様さえ愛しくて。
けれど泣かせたい訳では無かったのだと今更な後悔が襲い来て、逃げるようにお嬢様の部屋から遠ざかった。
無心に歩いた塵一つない廊下の端。
今の時間帯は誰も来ないだろうその場所の、品良く纏められた花が生けられた花瓶の側で壁に背を付ける。
そうして先程お嬢様に触れた唇に指を這わせ、ポツリと呟いた。
「貴女を、」
――貴女をこの手で拐ってしまえたなら、どれだけ、
「……いけませんね。『お嬢様の執事』が、そのような事を思っては」
私の立場では、お嬢様と添い遂げる夢を見ることすら罪だから。
今にも浮上してしまいそうな想いに固く封をして、二度と表に出てこないようにしなければ。
「そうしなければ、貴女の側に居られなくなってしまう…」
私が貴女に誓える感情はただ一つ。
貴女に対しての揺るぎない『忠誠』だけ。
それだけだから。
震える貴女の身体を抱き締めたがったこの腕から、全てを捨ててしまおうと思ったこの心から、目を逸らして。
次に会った時には何事も無かったかのように振る舞うのだ。