2013年クリスマス

異世界に召喚されるだなんて不思議な体験をしたあの日から季節は巡り、また肉まんの季節がやって来た。
今日も今日とてバイトに励み、帰り道にあったコンビニで肉まんにするか、それともたまには趣向を変えてカレーまんにするかで散々迷い。
結局いつものように肉まんを購入してコンビニを出る。
やはり肉まんは不動だよなー、なんて思いながら袋を開け、今まさにかぶり付こうとした瞬間。



「さあ!さくっと魔王を倒しにいきましょー!」



……妙に聞き覚えのある声が聞こえた気がしないでもない。
……妙に見覚えのある森の中に立っている気もする。
だけどただ単に迷ったんだよ。
うん。気のせい。気のせい。


「いやー、疲れてんだな!」


バイトのシフト入れすぎたかなー。
きっとそうだ。そうに違いない。


「現実逃避しても無駄だって分かってますよね?」

「……」

「無視は良くないですよ?勇者様なんですから、ちゃんと人の話は聞きましょうよ」

「人の話を聞かない代表格にだけは言われたくなかった…!」

「あ、反応してくれましたね?改めましてお久しぶりです!早速で悪いのですが魔王退治に出掛けましょう!」

「オイ待てこら!勝手に話を進めるな!」

「あ、今回は先に王様から資金をふんだくっ、預かってきましたから、さっさと進めますよ!誉めてください!」

「何を誉めろと!?心労が溜まりまくっただろう王様なら褒め称えますが!」

「あ、汽車の時間ですね。急ぎましょう!」

「相変わらずマイペースだな!オイ!行かねぇよ!?」

「何かご予定でもあるんですか?」

「家に帰って疲れを癒すという予定があります!」

「じゃあ問題ありませんね。ちょっと魔王倒してからでも実行出来ますし!」

「ちょっと魔王倒すって俺にとってはただの死亡フラグですが!?」

「大丈夫ですよ?勇者様ならきっと多分運が良ければ生き残れますって!」

「はい!不吉な言葉をありがとう!家に帰せ!」

「……えー、どうしてもですかー」

「どうしてもです!」

「ちょっと会わない間にまたごちゃごちゃ言うようになりましたよね。モテませんよ?」

「命懸けのバトルを繰り広げない代償にモテないなら俺はそっちを選びますがっ?」

「……でもなー」

「なんだよ」


チロリと俺を見やった神官は、意味ありげな笑みを浮かべるとあっけらかんと言い放った。


「今回は絶対に魔王を倒して貰おうと思ってたので、勇者様に魔王を倒すまで帰れない呪いを掛けてしまったんですよねー」

「はぁ!?」

「だから、まあ。勇者様がお帰りになるには魔王を倒さないといけないわけです!大丈夫!応援してますから一緒に戦いましょう!」

「とりあえずお前が何もする気がないことだけ分かったわ!というか、え?ナニしてくれてんの?」


何故に移住フラグ立ってんの?
俺が何かした?
肉まんかカレーまんかで悩んだせい?
いつもみたいに肉まん即決で選んでたらこうはならなかったの?


「肉まんだかカレーまんだか知りませんが、勇者様がこの世界に来るのは3日前には決まっていましたよ?あと汽車の時間なのでとりあえず駅に向かいましょう。話は汽車の中でも出来ますし!」

「頼むから現実逃避くらいはさせてくれ!」

「はい!幾らでも汽車の中でどうぞー」


そう言いながら女の力とは思えない程の力で腕を引かれ、俺はあえなく汽車に乗ってしまった。
ナニコレ。こいつめっちゃ強い。
え?こいつなんで他人任せにしようとすんの?
普通に渡り合えんじゃねえの?


「ああ、一応神職なんで手を汚したくないんですよね」

「俺もしがない一般人なので出来れば前科は持ちたくないですが」

「勇者様は勇者様ですから大丈夫ですって!」

「何を以てんなことを思うわけ?……つーか、なに?なんでまた魔王を倒す話になってんの?あの時和解したよな?」

「実はですねー。またあの懲りない馬鹿が同じ過ちを繰り返しまして。いい加減我慢の限界がキタのでもう逸そ葬ろうかと」

「またかよ!?全面的に魔王が悪いのは分かった!だけど勝手にやってろ!せめて俺を巻き込むな!」

「三人目の勇者様を巻き込まないで誰を巻き込めと?」

「真顔で即答はやめようぜ!?」

「まあ、そんなわけで」

「どんなわけだろうね!」

「――勇者様」


初めて見た神官の真剣な表情に俺は無意識な唾を飲み込む。


「さっさと魔王、ヤっちゃいましょうね!」

「うん!九割方想像してた答えだわ!」


何度も何度も言うけどな!



「夫婦喧嘩に俺を巻き込むなぁぁぁぁぁ!!」



▼フリーターは再度 巻き込まれた!
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