2013年クリスマス

「キミの足を二度と歩行不可能なくらい折りたいと思うんだけどいい?」

「突然なに!?いいわけないですけども!?」


俺の部屋で二人でのんびりとしていたら唐突に言われた言葉に思わず声を荒げる。
彼女はそんな俺に首を傾げながら「じゃあ」と口にした。


「じゃあ腕は?出来れば利き腕がいいな」

「じゃあの意味が分からない!あとなんで折ること前提みたいな話ししてるの!?腕も足も嫌です!」

「ワガママだなあ。そんな所も好きだけど、あんまりワガママだと強行手段取っちゃうぞ」

「ナニその脅し。普通に嫌だから嫌だって言ってるんですけども!」


ぶう、と唇を尖らせる彼女に頭を抱えながらそう言えば彼女はやっぱり意味が分かっていないような顔をする。
彼女と会話が成立することの方が稀なので別にいいんだけどね!
もう慣れたよこんちくしょー。


「脅しじゃないよ?ただキミを再起不能なくらい痛めつけて、ずっと側に居て欲しいだけだもの。ああ、安心して。どんなキミでもちゃんと愛せるから」

「可笑しいな。何も安心出来る要素がないのはなんでだろう」

「キミは何が嫌なの?私はキミのどんな姿でも、例えば死んだって愛すし、逆にキミを愛せない場所を探すのが不可能なくらい愛してるつもりなんだけど」



……まだ愛情表現が足りないのかな?どうすれば私の気持ちが伝わるんだろう?
ぼそりと呟かれた言葉に、いやお前の気持ちは痛いほど伝わってますから。と心の中で突っ込む。


「キミが嫌だと思うことは絶対にしないから、だから大人しく私のモノになってよ」

「それなら今の時間はなんなんですかね?絶賛俺が嫌がることをしてる最中じゃないんですかね?」

「……ぶう」

「ぶう、じゃありません。全く。なんでそんな変なことを言い出すかなお前は」

「キミが好きだからに決まってるじゃない」

「うん。好きだったら何してもいいとかないから。俺その考え否定派だから」

「私は肯定派だよ?」

「だろうね!」


じゃなかったらそんなこと言い出さないもんね!
全くもう。なんでこんなぶっ飛んだ女と付き合ってんだ俺。
ああ、はい。初対面で「付き合ってくれないなら殺す」ってサバイバルナイフ突きつけられたからでしたね。
アレは下手をしたらちょっとした事件になってたな。うん。
……ていうか、あれ?


「お前そのカッターで何する気だ、おい?」

「キミが私の愛を疑うから悪いんだよ?私はこんなにもキミのことを愛しているのに、酷いよね」


全く通じ合っていない会話にゾワリと背筋が冷えた。
薄暗い瞳をしたコイツの目はマジだ。
確実に俺の生命的な何かが脅かされる気がするのは間違いないだろう。


「お前が俺のこと好きだなんて知ってるから!俺もお前のこと好きだから!だからその手に持ってるカッターは捨てなさい!」

「キミに好きって言って貰えるなんて……嬉しい!」

「ああ、よか、よくねぇよ!?なんでカッター向けたまま抱きついてくんだよ!バカかお前は!!」

「避けられた…」

「そりゃ避けますけど!?とりあえずカッターを放しなさい!話はそれからだ」


全力で横に転がりカッターと接触することは避けたが、なんでちょっと残念そうな顔してんだよ。確信犯かこのやろう。


「お前な。もういい加減にしないと家から追い出すぞ」

「それはイヤ」

「はいじゃあこの話は終わり!」

「……」

「不満そうな顔してもダメ!」

「……分かった」


まだチャンスはあるしね。
なんて不気味なセリフが聞こえてきた気がしないでもないけれどこれ以上は俺の精神に大変宜しくないので聞かなかったことにしよう。
カッターを放って今度こそ俺に抱きついてきた彼女は、嬉しそうにニコニコと笑っている。
この顔を見ると俺も大概厳しくなれないんだよなぁ、とこっそりと息を吐いた。
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