イベント

ギルバート様。
そう呼ばれて振り返る。
そこには猫の耳をぴょこぴょこと動かす、獣人が立っていた。

「何?」

「わたくしを今夜の御相手になさってはくださいませんか?」

「……悪いけど、僕は妻以外には興味ないんだ」

「まあ、あんな。名前通りの冷たい女のどこが宜しいのです?」

「気になる?きっと時間なんてあっという間に過ぎてしまうだろうね」

でもね、と僕は囁いた。

「ランが望むなら、延々話しても良いと僕は思っているよ」

「……いつから気付いてたの」

猫の獣人の姿から、いつも通りのハイドランジアの姿に戻った僕の愛おしい妻はむくれ顔だ。

「どうして?そんなの愚門だよ」

――僕は死んでも、ハイドランジアのことを見間違えたりなんかしない。絶対に。

「……ギルバート……、きみは本当に仕方のない男だね」

彼女の古傷を抉った気もするけれども、僕は気にしない。
気にしないことが、彼女を救うことにも繋がるのだろう。

「愛してるよ、僕のハニーちゃん」

「茶化さないでよ、ギルバート!」

「ところでさっきの猫耳可愛かったから、ランの姿で今夜の相手して貰おうかなぁ」

僕ね、怒ってるんだ。

「ランのことを貶めるのは誰であろうと、決して許さない」

だから、覚悟してよね?

そう言ったなら、ハイドランジアは顔を蒼褪めさせながら逃げようとする。
そんなの僕が許さないから、腕を引いてそうしてその尖った真白い耳に囁いた。

「逃げたらもっと酷いけど、良い?」

真白い耳が赤く染まっていく。
嗚呼、本当に可愛いなぁ。
これから何をされるのか分かってしまったんだね。
まあ、それが正解なんだけれども。

「たっぷり朝まで愛し合おうね、ラン」

「……っ、ギルバートの朝までは信用ならない!」

そんな声が聞こえた気がしたけれども、僕は無視をして。
ただ愛しい妻と愛し合う為に、寝室へと向かったのだった。
5/10ページ