2019年バレンタイン

どうしてこうなった。
そう言うことしか今の俺には出来ない。

「せーんぱい」

語尾にハートマークでも付いていそうな神山に、げっそりとしながら俺は向き合っていた。
河原で。そう、河原で。
なんだ、決闘でもはじめるつもりか?なんて思ったけれども、神山がそんなことをするとは思えないし。
では一体何をしに河原に?
頭の中にはクエスチョンマークしか出てこない。

「あの、先輩に渡したいものがあるのですが……」

「なんだよ……こんなクソ寒いところでしか渡せないものなのか」

「まあ、別にここじゃなくても良かったんですけど、」

歯切れの悪い神山に益々首を傾げるしかなくて。

「先輩。私の想い、受け取ってください!」

「へ、あ、うわぁぁぁぁぁ」

神山が何かを投げ飛ばした。俺の顔面に向かって。野球選手も驚くほどの綺麗なフォームを描きながら。
思わず叫んだ俺は悪くないと思う。
何せ剛速球といっても過言ではない速度だったのだから。

「何すんだ!」

顔で受け取った何かは四角い箱で。確認したら青い紙に緑色のリボンでラッピングされている。

「なんだ、これ……」

「ふふ、先輩。今日は何の日でしょう」

「何の日?」

そこで俺はハッと思い出す。
そう言えば今日は二月十四日、バレンタイン。
愛を伝える日で……って、いや。それにしたって。

「真冬の河原で剛速球並みに投げてくるチョコとかあるか!?」

「昨日から頑張って作った力作です」

「そういうこっちゃねぇんだよ」

「ちなみに愛は籠ってません」

「かーみーやーまー?」

その言葉にイラッとしたのは、どうしてか。
なんて。そんなの決まっているのだけれども。

「恋人に対しての対応じゃねぇ」

「恋人以外からも貰う先輩が悪いんです」

「それは、悪かった」

確かに神山に会う前に引退した陸上部に顔を出した際にマネージャーから貰いはしたが、あんなのは義理でしかないだろう。

「神山」

「なんですか、先輩」

「俺はお前の本命しか要らないんだけど」

「……驚きです」

「あ、何がだよ」

「びびりではない先輩なんて、先輩じゃないです」

「お前は何が言いたいんだ?」

「ふふ」

「神山?」

神山は少しだけ笑って、そうでした、と呟いた。

「あなたはいつだって、そういう人でしたね」

「どういう意味だよ」

「先輩」

「はいはい、なんですか」

「えへへ、私の想いは重いですよ」

「知ってるよ。ばーか」
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