2019年書き始め
「あ、先輩。新年あけましておめでとうございまーす!」
「おー、あけましておめでとうございます。……じゃ、ねぇよ?なんでお前さらっとウチに居るんだ?」
「え?そりゃあ、先輩のお母様にお呼ばれされたからですよー。ねー、幸子さん」
「そうよー。涼ちゃんにこぉんな可愛い彼女が居るだなんてお母さん聞いてません!ウチは男しか居ないからずーっと女子会がしたかったのよ!」
「色々ツッコミたいんだけど、馴染み過ぎてて何も言えねぇ……」
神山が俺の家にさらっと居るのはもういい。もう、なんかいい。そこはとりあえず置いてこう。
……親父も弟も何でそんなスルーして餅食ってんの?雑煮美味そうだけど俺にはないんですかね!……じゃなくて。
「神山、お前、いつからウチに居たわけ?」
この早起きレベルが爺さん婆さん並みの女が、こんな昼間になってから起きて来た俺に会わせてやって来たわけがない。
「若葉ちゃんのお家に朝の七時に連絡して、八時には来てくれたわよぉ」
俺の純粋な疑問は母親の声によってあっさりと返された。
「母さん……朝の七時に他人様の家に電話して何やってんの?」
「私は日の出と共に起きてますから大丈夫ですよ~。幸子さんとお話するの凄く楽しいですし」
「そういう問題じゃない」
嬉しそうにする母さんをどうか止めてくれ、父さん。
そんな願いをテレビを見ながらみかんを剝き始めた父さんの背中に込めたが、そんなものは無視された。俺の扱い!
「それより、先輩」
「あ、なんだよ」
「実は先輩にお願いもあって、先輩のお家に来たんですけど」
「そうなのか?」
「はい」
にっこりと笑った神山の笑顔に、何故だか背筋がゾッとした。
「ウチの神社のバイトしてくださってるじゃないですか」
「あ、ああ。そうだな」
半ば強引だったけどな。
なんて言えない。
ついでに言うならば、まさか家族に「幽霊」だの「妖怪」だの「神様」だのに憑かれやすい体質だなんて言えない。
夢物語か、それこそ初夢か何かかと言われ兼ねない。
……どっちも夢じゃね?まあ、良いか。
そんな憑かれやすい体質な俺の為に神山が俺に守護として付けた式神。それが俺を守ってくれているらしい。
その対価に俺は神山が住む家、正確には神社で「アルバイト」をしているというわけだ。
「ここで話せることか?」
「やだー。涼ちゃんったら、女の子と二人きりで何する気なの!」
「母さん。ちょっと本気で黙って」
「まあ!お母さんに向かって何を言うのかなこの息子は!お昼ご飯のお雑煮持ってきてあげたのに!」
「あー、それはそれは。ありがとうございます」
「心が籠ってないわよ涼ちゃん」
「母さん。ずっと言いたかったんだけど、客人の前で「涼ちゃん」はやめてください。恥ずかしいから」
「やだぁ。生まれてからどんな時でも涼ちゃんのことは涼ちゃんって呼んでるんだから仕方がないじゃない」
ふんっと腰に手を宛がって仁王立ちする母さんに、これ以上逆らってはニコニコしている神山を楽しませる以外ないと分かったので、母さんから雑煮の入った器を受け取って、箸をつける。
「……なあ、神山」
「はい?なんですか、先輩」
「これ、お前も手伝った?」
「……良く分かりましたね」
「まあ、お前の家で飯食ってる回数、そんなに少なくないからな」
そう言った神山は、驚いた顔をしていた。
なんだ?と思って見ていたら、弟の和也がゲーム機を弄りながら口を出してくる。
「お熱いことするなら部屋でやってくれない?」
「は?なんでだよ」
「うざいから」
「なんだ反抗期か」
「反抗期でも何でも良いけど、兄貴の天然さはウザイ。まじウザイ。良く若葉ちゃんはこんなん付き合えるね」
「いやいや。和くん。わりと私もイラついてはいますよ?」
「……は、」
「あ、そーでした。先輩。バイトの話なんですが」
神山がへらっと笑って俺に話し掛けて来た。和也も平気な顔をしている。
何故だかそれが嫌で、何でかは分からなかったけど凄く嫌で。
それでもソレを今はまだ表に出してはいけない感情だと思ったから。
「……ああ」
ただ俺は、神山の言葉に力なく答えることしか出来なかった。
のちに知った。
俺がその時に抱いた感情が『嫉妬』というモノだったということに。
「お父さんも嫉妬することあるんだね」
「当たり前だ」
神山……若葉と結婚してから出来た一人娘、紅羽に昔話をしていたら、紅羽は「ふぅん」と呟いて、そうしてぼそりと呟いた。
「あの人もわたしに嫉妬したりするんですかねぇ……」
「は?……紅羽。お前……か、彼氏でも……出来たのか……」
「……はあ。お父さんのそういうところ本当に嫌い」
「嫌い!?」
「おかあさーん。お父さんがうざいー」
「はいはい。昔からですよー」
「若葉!?」
「はいはい。そんなことより涼也さん。お雑煮出来ましたよー」
「あ、ああ。ありがとう」
「ふふ。今年も涼也さんと一緒に新しい年を迎えられました」
「そうだな。もう若干何十年か数え忘れてるけどな」
「あ、酷いです!結婚してからは二十五年ですよー!」
「じゃあ。出逢ってからは三十年は経ってるわけか」
「そうですね!驚きです!」
紅羽の彼氏問題から話を逸らされた気がしたが、それには気付かないフリをした。
高校生の紅羽に好きな男の一人や二人居てもおかしくはないからな。
俺はニコニコと笑っている若葉に向かって肩を竦めた。
「おー、あけましておめでとうございます。……じゃ、ねぇよ?なんでお前さらっとウチに居るんだ?」
「え?そりゃあ、先輩のお母様にお呼ばれされたからですよー。ねー、幸子さん」
「そうよー。涼ちゃんにこぉんな可愛い彼女が居るだなんてお母さん聞いてません!ウチは男しか居ないからずーっと女子会がしたかったのよ!」
「色々ツッコミたいんだけど、馴染み過ぎてて何も言えねぇ……」
神山が俺の家にさらっと居るのはもういい。もう、なんかいい。そこはとりあえず置いてこう。
……親父も弟も何でそんなスルーして餅食ってんの?雑煮美味そうだけど俺にはないんですかね!……じゃなくて。
「神山、お前、いつからウチに居たわけ?」
この早起きレベルが爺さん婆さん並みの女が、こんな昼間になってから起きて来た俺に会わせてやって来たわけがない。
「若葉ちゃんのお家に朝の七時に連絡して、八時には来てくれたわよぉ」
俺の純粋な疑問は母親の声によってあっさりと返された。
「母さん……朝の七時に他人様の家に電話して何やってんの?」
「私は日の出と共に起きてますから大丈夫ですよ~。幸子さんとお話するの凄く楽しいですし」
「そういう問題じゃない」
嬉しそうにする母さんをどうか止めてくれ、父さん。
そんな願いをテレビを見ながらみかんを剝き始めた父さんの背中に込めたが、そんなものは無視された。俺の扱い!
「それより、先輩」
「あ、なんだよ」
「実は先輩にお願いもあって、先輩のお家に来たんですけど」
「そうなのか?」
「はい」
にっこりと笑った神山の笑顔に、何故だか背筋がゾッとした。
「ウチの神社のバイトしてくださってるじゃないですか」
「あ、ああ。そうだな」
半ば強引だったけどな。
なんて言えない。
ついでに言うならば、まさか家族に「幽霊」だの「妖怪」だの「神様」だのに憑かれやすい体質だなんて言えない。
夢物語か、それこそ初夢か何かかと言われ兼ねない。
……どっちも夢じゃね?まあ、良いか。
そんな憑かれやすい体質な俺の為に神山が俺に守護として付けた式神。それが俺を守ってくれているらしい。
その対価に俺は神山が住む家、正確には神社で「アルバイト」をしているというわけだ。
「ここで話せることか?」
「やだー。涼ちゃんったら、女の子と二人きりで何する気なの!」
「母さん。ちょっと本気で黙って」
「まあ!お母さんに向かって何を言うのかなこの息子は!お昼ご飯のお雑煮持ってきてあげたのに!」
「あー、それはそれは。ありがとうございます」
「心が籠ってないわよ涼ちゃん」
「母さん。ずっと言いたかったんだけど、客人の前で「涼ちゃん」はやめてください。恥ずかしいから」
「やだぁ。生まれてからどんな時でも涼ちゃんのことは涼ちゃんって呼んでるんだから仕方がないじゃない」
ふんっと腰に手を宛がって仁王立ちする母さんに、これ以上逆らってはニコニコしている神山を楽しませる以外ないと分かったので、母さんから雑煮の入った器を受け取って、箸をつける。
「……なあ、神山」
「はい?なんですか、先輩」
「これ、お前も手伝った?」
「……良く分かりましたね」
「まあ、お前の家で飯食ってる回数、そんなに少なくないからな」
そう言った神山は、驚いた顔をしていた。
なんだ?と思って見ていたら、弟の和也がゲーム機を弄りながら口を出してくる。
「お熱いことするなら部屋でやってくれない?」
「は?なんでだよ」
「うざいから」
「なんだ反抗期か」
「反抗期でも何でも良いけど、兄貴の天然さはウザイ。まじウザイ。良く若葉ちゃんはこんなん付き合えるね」
「いやいや。和くん。わりと私もイラついてはいますよ?」
「……は、」
「あ、そーでした。先輩。バイトの話なんですが」
神山がへらっと笑って俺に話し掛けて来た。和也も平気な顔をしている。
何故だかそれが嫌で、何でかは分からなかったけど凄く嫌で。
それでもソレを今はまだ表に出してはいけない感情だと思ったから。
「……ああ」
ただ俺は、神山の言葉に力なく答えることしか出来なかった。
のちに知った。
俺がその時に抱いた感情が『嫉妬』というモノだったということに。
「お父さんも嫉妬することあるんだね」
「当たり前だ」
神山……若葉と結婚してから出来た一人娘、紅羽に昔話をしていたら、紅羽は「ふぅん」と呟いて、そうしてぼそりと呟いた。
「あの人もわたしに嫉妬したりするんですかねぇ……」
「は?……紅羽。お前……か、彼氏でも……出来たのか……」
「……はあ。お父さんのそういうところ本当に嫌い」
「嫌い!?」
「おかあさーん。お父さんがうざいー」
「はいはい。昔からですよー」
「若葉!?」
「はいはい。そんなことより涼也さん。お雑煮出来ましたよー」
「あ、ああ。ありがとう」
「ふふ。今年も涼也さんと一緒に新しい年を迎えられました」
「そうだな。もう若干何十年か数え忘れてるけどな」
「あ、酷いです!結婚してからは二十五年ですよー!」
「じゃあ。出逢ってからは三十年は経ってるわけか」
「そうですね!驚きです!」
紅羽の彼氏問題から話を逸らされた気がしたが、それには気付かないフリをした。
高校生の紅羽に好きな男の一人や二人居てもおかしくはないからな。
俺はニコニコと笑っている若葉に向かって肩を竦めた。