2019年書き始め

「壱乃」

「くっきー、どうなさいました?」

新年の挨拶で忙しなく動いていたら、もう日付は変わっていて。
ようやく就寝出来るといったそんな時、くっきーは家に突然やって来た。

「どうもこうも、お前が風邪を引いたって聞いたから……俺は……」

「風邪?わたくしは風邪なんて引いてませんが……?」

何せわたくしは魔女ですから。
魔女は風邪など引きません。
なんて、そんな冗談は置いておいて。

「新年早々、風邪を引いたのはマツ子さんですよ」

「なんだ……俺はてっきりお前かと……」

ホッと息を吐いたくっきーに、わたくしは少しだけ心がモヤッと致しました。

「わたくしの友人は風邪を引いているのですよ?マツ子さんは貴方の友人でもあるでしょう。何故そこで安心だなんてするのです?」

「何故って、……俺は、お前が好きだから。だから、お前が居なくなることが俺はこの世で一番怖い」

「……風邪如きで魔女は死にません。まあ、マツ子さんなら分かりませんが」

「ふはっ。お前だってマツ子のこと結構色々言ってんだろ」

可笑しそうに顔をくしゃりと歪め、けれどもそのあと真顔になると、大きな手がわたくしの魔女特有の体温無き頬に触れる。
わたくしは無意識にその手に頬を寄せていた。

「俺は、無情でも非情と呼ばれても、壱乃だけが居れば良い」

「……くっきー」

「だから、くっきーはやめろ。俺にはちゃんと名前があるんだから」

「ふふ、わたくしの付けた渾名が気に食わないと?」

「……はぁ。適わねぇなぁ……ったく」

呆れたように銀色の髪をくしゃりと掻き上げて、それでも大事なモノに触れるようにわたくしを抱き締めるくっきー。
人狼特有の高めの体温に慣れなかった筈なのに、それに安心するようになったのはいつからか?
わたくしはただ、ほんの少し。少しだけ、マツ子さんの風邪に感謝した。
そうでなければ、わたくしはくっきーのことを突っぱねていたかも知れませんから。

(あとでマツ子さんのお見舞いに行ってきましょう)

マツ子さんは嫌がるかも知れませんが、それでも。
この温もりの切っ掛けをくださったのはマツ子さんですから。

「九楼さん」

「……っ、な、んだ。いきなり。名前で呼ばれるとそれはそれで気持ち悪いな」

「そうですか。ではもう呼びません」

「壱乃、お前な?」

「ふふ。冗談と嘘と本音、さあ。どれでしょう?」

全てでも有り、全てでも無い。
そんな言葉を吐いて、わたくしは微笑んだ。


新しい一年の始まり。
わたくしは彼の胸の中に居られる奇跡に、柄にもなく神に感謝をしました。
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