2018年クリスマス

「先輩先輩」

「なんだ?」

努めて優しく声を発した。何せ今日はクリスマス。何があるか、何処に連れて行かれるか、分かったもんじゃないからな。

「行きたいところがあるんですけどね?先輩は着いて来てくれますか?」

「……場所と重要度具合による」

「……うーん。もしかしたら先輩にはそこまで重要な場所じゃあないかも知れないんですが……」

「なんだ。さっさと言えよ」

こちとら何処に連れて行かれるのかビクビクしてるんだから。

「病院です」

しばし考えたのちに、俺は言った。

「どの廃病院だ?」

「え、普通の病院ですよー」

「そう言ってお前はこの前も山の中にハイキングと称してお祓いに行ったよな?」

「あはっ。大丈夫ですよー。行きたいのはちゃんとした病院ですので」

「……何処か、身体が悪いのか?」

「あー、まあ。悪くはないんですけど……」

お茶を濁すようにもごもごと言いづらそうにしているコイツに、さて、どう口を割らせようかと悩む。
すると、小さな声で何かを言われた。

「……です」

「なんだ?」

「子供が、出来たかも知れなくて……」

「……は、」

「迷惑、でしたか……」

「……」

睫毛を伏せて、何かを諦めようとするような動作を取ったコイツの身体を抱き寄せる。

「若葉」

「……は、はい」

「生んでくれ」

「……は、い?あの、迷惑じゃ……」

「お前な!子供が出来るようなことしてんだからそれ相応の覚悟が俺にもあるんだよ!要らない、なんていうわけがない!」

「……」

大きく目を見開いて、若葉はその金色の瞳からぼろぼろと涙を零す。

「私の子供で、良いんですか?」

「俺の子供でもあんだぞ。何か不満でもあるのか?」

「ありません……!せんぱ、」

「お前は旦那の名前も呼べないのか?」

「……涼也……さん。うぅ、やっぱりまだ恥ずかしいですね……」

「普段俺をからかう時は散々呼ぶくせに、お前は本当に馬鹿だなぁ」

腕の中で、小さな身体を抱き締めながら俺は笑った。



クリスマスは俺にとって高校の時、この世界で一番大事になる女と関わりを持った日だった。
けれどもこれからはもっと大事な日になりそうだ。
その女の胎に、これから大事になる命が宿った日でもあるのだから。
2/2ページ