2018年クリスマス

「メリークリスマス!」

そんな声と共にパァンと鳴らされた何か。まあ、クラッカーだろうな。

「おい、ビッチ。お前はなんでこうも突拍子がないんだ?あ?」

「あらやだアドルったら。アタシにマトモさを求めているの?それは神に向かって『神など居ない』と言っているようなものよ?」

「絶妙に分かりづらいし、神なんて居ないって普段から言ってる奴の言葉とは到底思えないな」

「んふふ。アタシは神を信じてないもの」

そう言って、クラッカーを持ったまま妖艶に微笑むのは我が組織『アーベレッチェ』の当主でありカポでもある女。
その手に持っているクラッカーのせいで色々台無しではあるが、それでもこの女を『愛する男達』はそんなところすらも愛おしいと言うのだろう。
ああ、忌々しい。全員纏めて殺してやりたくなる。
自分の中の凶暴な部分を押し隠しもしないで、この女の頭を掴んだ。

「……っん」

鼻から抜けるような声にゾクリと背筋が震えた。
人前には出さない、出すつもりもない感情だけれども。

(俺は……他の愛人達と変わらないな)

どんな姿でも愛おしいし、どんなことになっても裏切るつもりはない。
例えばコイツの中に『愛情』なんて感情がなかったとしても。

「……なぁに?アドルったら、もしかして嫉妬でもしてくれたのかしら」

「悪いか」

「いいえ?アナタに愛されるのは心地が良いもの」

「……ッハ。嘘つきが」

「あら?本音なのに酷いわねぇ」

にやけた面をしながら俺の胸に寄り添って、それでも『愛してる』とは言わない女。
その『愛』を欲しがって、愛人達は競い合う。
それが計算で出来ていることだと分かっていても。
どうしたって貰えないと分かれば、誰だって欲しくなるというものなのだろう。
そんなことより。

「それで、その浮かれたクラッカーはどうしたんだ」

「ああ、アタシの可愛い子達が用意したのよ。クリスマスだからってね?」

「……そういえば、最初に言ってたな」

「んふふ。来年はもみの木でも植えましょうか」

「そこまでやる気か」

「アタシはやると言ったらやるわよ?」

知っているデショ?
とばかりに手に持ったクラッカーを左右に振る女。

「セシル。あまり子供を甘やかすものじゃない。特にこんな世界に居るんだからな」

「あら。親からの愛は必要よ?アタシはこの組織のカポ。つまるところ『みんなの母親』でもあるのだから家族に対しては幾らでも愛を注ぐわよ」

「愛を知らない女が愛を語るか」

「人間って成長するものだって、アドル言ってなかったかしら?」

「そうだな。成長するもんだ。そうしてお前には成長が見られん」

そんな話をしながら、セシルの腰を抱いて俺達はきっと『家族』が待っているであろう広間に向かっていった。
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