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【嘘つきが吐いた嘘】



「いい夫婦の日なんだそうだ」

「……ああ、今日のこと?語呂が良いものね」

夫となった男の言葉に一瞬首を傾げてから、アタシはそう答えた。

『いい夫婦の日』

日本でそう呼ばれる十一月二十二日はアタシにとっては魅力的でもなんでもない日。
今日という日に婚姻届を出すカップルも多いらしく、ニュースでは繰り返されるように同じ光景と言葉が映し出されるけれども。
パソコン作業をしながらアタシは彼に問う。

「それがどうかしたの?」

「いや……何でもない」

そう言った彼の顔をちらりと見れば、何かを言いたそうにしている雰囲気を醸し出していた。

「ふぅん?その顔は『何でもない』って顔ではないように見えるけどぉ……アナタはアタシにナニかして欲しいわけ?」

叶えられる範囲ならば叶えてやろう、とそんな傲慢な考えを抱きながらアタシは彼の言葉を待った。

「……子供が生まれる前に、」

「ええ」

「二人きりの時間を持ちたいと、そう願うのは罪だろうか」

「……何故そう思ったのかしらねぇ?アタシの旦那サマは」

そんな可愛らしい『お願い』ならば、幾らでも叶えてあげたいと思ってしまう。
そう思うくらいには、アタシはこの男に絆されていたのだろう。

「手始めに手でも繋いでみましょうか」

んふふ、と笑って、アタシはパソコンを閉じて彼の傍にピタリと寄ると手を取った。
男にしては傷ひとつない綺麗な良く手入れをされている手のひらに、アタシは口付けをする。

「……お前の手は冷たいな」

「そりゃあそうよ」

何せアタシの手は真っ赤の染まっているのだもの。
とはもちろん言わずに。
アタシの手を握って微笑みを浮かべた夫に、アタシは「さあ、次は何をしましょうか?」と笑った。


来年には増えている『家族』という存在を、アタシはどれだけ大事に出来ているのかしら?
そんな遠いような未来を思うことは今はやめにして。
彼と過ごす時間を大事にしよう。
そんな堅気のよう思考を抱いた、未来のアタシにとっては何てことない特別な日のことだった。
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