2018年ハロウィン

愛しているし憎んでもいる。
けれどもこの女を欲している自分もいる。
それは甘美な毒のように身体に入り込んでは俺を侵食していき、今のところ解毒は出来そうもない。
溜め息を抑える為にテーブルに置かれた煙草に火を点ける。ライターはあの女が嬉々として渡してきた揃いのモノ。
命の色を連想させる紅が俺の瞳の色と同じだと笑っていた。
いや、アレは嘲笑っていた、の方が正しいのかも知れないけれども。

心を落ち着かせる為に吸い始めた煙草も、慣れてしまえば……いや、侵食されてしまえば、なくてはならないモノになってしまった。

大人しく寝息を立てる女を背に、立ち上がるとベッドの下に散らかっている衣服を纏めておく。
仕事の時間になればメイドがいつも通り洗濯をしてくれるだろう。

散乱された衣服、皺の寄ったシーツ、若干の痛みを伴う背中。
すべてが昨晩、いや、今朝方まで行われていた情事を思い起こさせるが、それで興奮する程もう若くはない。
目に見えて年老いているわけでもないけれども、四十を超えた辺りから疲労が取れにくくなったことは実感している。

「んー……もう、あさ?」

「まだ寝てろ。今日は大事な会議があるんだから」

「……シャワーが浴びたいわ」

「……ひとりで入る選択肢は?」

「ないわね」

最後の言葉は今までの眠そうな声音からは一変してハッキリと紡がれた。
はぁ、とひとつ溜め息を吐いて、何も身につけていない素っ裸の女を抱きかかえてシャワールームに連れて行く。


**


「そう言えばアドル」

「なんだ」

「トリックオアトリート」

「は?」

「お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうわよ?」

「意味を教えようとしているのか?それとも馬鹿にしているのか?」

「そのどちらでもないし、そのどちらでもあるような気がするわねぇ。強いて言うなら今日がハロウィンだと思い出したから、かしら」

ねぇ、アドル?

先程まで俺の手によって暴かれ、全身を洗われていた女――セシルは青い瞳を細め、目尻を下げる。
そうして紅い唇をチェシャ猫のように歪めた。

「お菓子と悪戯、アタシはどちらも欲しいのよ」

「このビッチはいつになったら治るんだろうなァ?」

「そんなの、永遠に来ないわよ」

そう呟かれた言葉と共に、近付いてきたセシルが俺のネクタイを引っ張って強引なキスをした。

「ハロウィンくらい楽しまなくちゃ損よ?この業界に居る限り楽しみなんてあまりないもの」

さあ、お菓子は貰ったから、あとは悪戯させて頂戴な。
ぺろりと舌を出して唇を舐めたセシルの誘うような芳香に、俺はまた溜め息を吐いて。
仕方がないとばかりにベッドに押し倒した。

「言っておくが、腰が痛いから会議に欠席は許されないからな」

「あら?んふふ。バレちゃった」

「バレバレだ」

会議の時間まで残り三時間。
俺は肩を竦めながら付き合ってやることにした。
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