2018年バレンタイン

これはまだわたくしと劉桜様が幸せに過ごしていた時のこと。

「劉桜様!お菓子を焼いてきました!」

「睡蓮……また来たのか」

仕事中の劉桜様に差し入れと称してお菓子を作った。

「甘いお菓子は脳を癒すと言いますから、最近お忙しい劉桜様も癒されるかと思いまして……」

ご迷惑、でしたか。
見上げるように劉桜様を見れば、はぁ、と深い溜め息。

「気持ちは嬉しい、が。何も執務室まで来なくとも良いだろう」

「失敗しないで出来たものですから、つい早ってしまいました」

お恥ずかしいです……。
顔を赤くすれば、睡蓮、と名を呼ばれた。
はい?と首を傾げながらなんでしょうと近づいて行く。

「ちょうど休憩にしようと思っていたんだ」

「劉桜様……!」

歓喜に打ち震えながら劉桜様に抱き着きたいのを我慢する。
そんな劉桜様は優しく微笑まれて、腕を広げられた。

「おいで、睡蓮」

「大好きです、劉桜様!」

広く暖かな胸に抱かれて、わたくしは幸せな気持ちになる。
劉桜様はわたくしの頭を撫でて髪を一筋掬うと口付けをされた。
最近の劉桜様はスキンシップが激しい。
それが恥ずかしくて、嬉しくて、更にくっ付いてしまう。

「茶にしよう」

「はい」

存分に楽しんだのかわたくしを解放した劉桜様はそう言うと、茶器を出す。
わたくしは茶葉を入れ、お湯を注いだ。
なんでしょう。
この感情を表すならば、そう。

「……幸せだな」

「……はい、劉桜様」

幸せです。とても。幸せなのです。
貴方様と居られて、過ごせて。
こんな日々が幾年も続けばいいと。
そんなことを、わたくしが作った焼き菓子を口にする劉桜様を見て思ったのです。
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