2015年クリスマス

出逢うことが罪だと言うのなら、どうして俺達は出逢ったのだろう。



「なァ、魔王サマ」

「なんですか?」

「結婚なさるって本当ッスか?」

「情報が早いですね。本当ですよ」

「どうして」

「どうして、とは…」


困惑顔の魔王サマに、俺は詰め寄るように執務をしていた魔王サマの隣に立って顔を近付けた。


「――あんなに激しく昨日も愛し合ったのに」

「っ…!」


ふぅ、と魔王サマの耳に息を吹きかければ、魔王サマはびくりと身体を震わせる。


「俺とのこと、遊びだったんッスか」

「……っそれは、」


言葉を途切れさせた魔王サマは、いつもの凛とした瞳でも、夜に見せる蕩けた瞳でもなく、戸惑うように視線をうろつかせた。


「私は、魔王です」

「知ってますよ」

「魔王は決められた強い男と婚姻することが定められています」

「そんな法、アンタがどうにか出来ることだろ」

「分かってください。ハイディ」


辛そうな顔。
別にそんな顔が見たかったわけではないけれど、言いたくもなるだろう。
俺達は、恋人だったんじゃないのかって。
それとも上辺だけ?
身体だけの関係のつもりだったのかよって。


んなわけねぇだろ!!


「……っかるわけ、ないっしょ」

「ハイディ…」

「魔王サマ。やめてください。結婚なんて、いいじゃないっすか。ああ、アンタ、俺のこと好きなんだから、俺と結婚すりゃいいじゃん」


名案だとばかりにそういえば、魔王サマは眉を顰めてますます辛そうな顔をして。


「……すみません」


断られると思って、いなかったわけじゃない。
でも、そんな言葉を聞きたかったわけじゃなかった。


「俺、アンタのこと諦めないから」

「……私のことは忘れてください」

「嫌っすよ。絶対に嫌だ」

「ハイディ……」




「なぁんてことがあったんだってね?」

「ごっふ、えほえほ」

「何で知ってるんだよお前はぁ」

「母様の元婚約者に聞いた。笑い話があるから聞いてけって」

「あの男……後で焼失させておきましょうか」

「まぁまぁ、ハニー。今は昔の話じゃない」

「父様が凄い邪魔してきて、下手に結婚式の日に浚いにも来たって」

「そうそう。懐かしいなぁ」

「焼失だけでは足りませんね。もういっそ埋めましょうか」

「ハニー。ハニーが俺以外のことで感情を動かすのは嫌だなぁ」

「父様は本当に仕事モードと家モードでは母様への対応が……ああ、いや、あんまり変わらなかったですね」

「そういえば今日は結婚記念日だったねハニー」

「……え、ええ、そういえばそうでしたね」


無理やりな話の方向転換に、母様はそれでもそういえばと返す。
父様が僕ににこりと笑みを向けてきた。


はいはい。分かりましたよ。


「父様母様。面白い話を聞かせてくれたおじ様のところに今日は行ってくるね」

「え、いえ。今日はクリスマスですしあなt、むぐ」

「行ってらっしゃい」


語尾にハートマークでも付きそうなくらいの声音にぞわっとしながらも、僕は母様の(身体の)為に父様と母様を二人っきりにしてあげようと家を飛び出す。


クリスマスが結婚記念日なんて魔王らしくないよなぁ、なんて思いながら、ふふ、と笑った。




出逢うことが罪だと言うのなら、どうして俺達は出逢ったのだろう。



「罪だと言われても、俺は決して諦めたくなかったからね」

「なんの話です」


愛しの魔王兼ハニーを抱きしめながら、ぽつりと呟く。
その声を拾った彼女は、こてんと首を傾げた。
ああ、可愛いなぁ、と思いながら更に彼女の身体を抱きしめる。


「今夜はホワイトクリスマスだね。ハニー」

「ああ、神が喜びそうな日ですね」

「ハニー。俺と居るのに他の男の話?」

「……常々思うのですが、何故『ハニー』などと呼ぶのですか」

「今更だねハニー。アンタの名前は、俺だけが知ってればいいからだよ」

「他のモノも知っていますが」

「声に出すのと出さないのでは違うからね」


そういってにっこりと笑った。
彼女はまだ納得がいっていないような顔をしていたけれど、俺はそれを押し込めて、大事な彼女との子供が作ってくれた滅多にない二人きりの時間を堪能するために彼女を抱きかかえて寝室へと向かった。



諦めなくて良かった。



そう呟いたら、私も貴方に呆れられなくて良かったです、と泣きそうな、それでも幸せそうな顔で返された。
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