2015年バレンタイン
「今年はアンタに殺される前に私が先にチョコを渡す」
大好きな恋人の家に来て、さあ今年もバレンタインチョコ(魔女の血風味)を渡そうと鞄からラッピングした箱を取り出そうとした瞬間。恋人は声高らかにそう言った。
「そんなに僕に殺されるの嫌なの?」
「そうじゃない。いえ、殺されるのは不本意極まりないけれども」
「じゃあ、なに?」
「去年も私は結局バレンタインデーにアンタにチョコを渡せなかったわ。だから今年はちゃんと渡したいの」
「そんなの、僕はいつだって構わないのに」
「今日は恋人に愛を伝える日なのでしょう?なら、私からも伝えさせて頂戴」
「……」
「何?」
きょとんとした顔をする恋人。
ああ、可愛いなぁ。とは思う。
思うけれど、それを口に出して言えるだけの余裕がない。
(付き合ってかなり経つけど、言葉で恋人だって言われたの初めてだ!どうしよう嬉しい!)
嫉妬や束縛ばかりする僕のことを、本当はどう思っているのかずっと気になっていた。
もしかしたら可哀想だから付き合ってくれているのかも知れないだなんて、彼女に対して不誠実なことすら思うくらいには気になっていた。
それがどうだ。
「僕達、恋人なんだ……」
「今更何を言っているの?」
「ううん。嬉しくて。ありがとう」
「意味が分からないんだけど、まあ、いいわ。はい。今年は私からのチョコを食べて貰うからね?」
「うん。キミから貰うものなら例え毒が入ってても喜んで食べるよ」
「愛が重い」
「え?どの辺が?」
「いえ、何でもないわ」
今の言葉のどの辺が重いのか良く分からないけど、彼女は頭を抱えるだけで特に何かを言うわけでもないからいいか。
それより、彼女が作ってくれたチョコを食べることの方が僕にとっては重要事項。
料理上手な彼女が作ってくれたチョコだからきっと美味しいだろうな。
綺麗な模様が描かれた宝石みたいなチョコレートを一つ指で摘まんで口に大切に運ぶ。
舌の上で溶けるチョコレートは甘くて僕好みの味だった。
「凄く美味しい」
「それは良かった」
もう一個口に運ぼうとして、途端に意識が白く霞む。
(あれ?)
なんだろう。凄く眠い。
そう思った時には、意識は黒く塗り潰されていた。
「酷いよ!睡眠薬で眠らせるなんて!起きたらバレンタインが終わってたじゃないか!」
「私は別に今年も素直に殺されてあげるなんて言ってない」
「僕からの愛は要らないってこと」
「そんなことは言ってないけど、あのままだったら去年の二の舞だっただろうし、私は今年は穏やかに過ごしたかったの」
貴方とね?
「……っ」
そんな風に言われて、微笑まれたら何も言えないって分かっていてやっているんだから、彼女は怖い。
そうやって僕以外の人間の男も魅力しているのかと思うと、本当に人間を抹殺したくなる。
「気配が不穏。怒ってるの?」
「キミには怒ってない」
「そう。でもダメよ」
「え?」
両頬を包まれて視線を合わせられた。
血の色よりも紅い瞳の中に僕が映る。
「今は私と居るから、だから私以外のことを考えたらダメ」
「……今年はデレの大盤振る舞いだね。僕ちょっと本気で怖いよ」
「たまにはいいでしょう」
微笑んだ彼女と見つめ合い、キスをした。
口の中に僅かに広がる血の味に、僕のチョコちゃんと食べてくれたんだと思いながら深く深く口付けた。
(このまま溶けちゃえばいいのにな)
そうしたら、ずっと一緒に居られるのに。
(ああ、でも、僕の前で死んでくれなかったのは許せないなぁ)
どんなキミでも大好きだけど、僕の知らないところで勝手に死ぬのは許さない。
(死にたくなかったわけでもないなら、もう一回死んでも変わらないよね?)
そう口付けたまま笑って、自分の口内を噛み切った。
大好きな恋人の家に来て、さあ今年もバレンタインチョコ(魔女の血風味)を渡そうと鞄からラッピングした箱を取り出そうとした瞬間。恋人は声高らかにそう言った。
「そんなに僕に殺されるの嫌なの?」
「そうじゃない。いえ、殺されるのは不本意極まりないけれども」
「じゃあ、なに?」
「去年も私は結局バレンタインデーにアンタにチョコを渡せなかったわ。だから今年はちゃんと渡したいの」
「そんなの、僕はいつだって構わないのに」
「今日は恋人に愛を伝える日なのでしょう?なら、私からも伝えさせて頂戴」
「……」
「何?」
きょとんとした顔をする恋人。
ああ、可愛いなぁ。とは思う。
思うけれど、それを口に出して言えるだけの余裕がない。
(付き合ってかなり経つけど、言葉で恋人だって言われたの初めてだ!どうしよう嬉しい!)
嫉妬や束縛ばかりする僕のことを、本当はどう思っているのかずっと気になっていた。
もしかしたら可哀想だから付き合ってくれているのかも知れないだなんて、彼女に対して不誠実なことすら思うくらいには気になっていた。
それがどうだ。
「僕達、恋人なんだ……」
「今更何を言っているの?」
「ううん。嬉しくて。ありがとう」
「意味が分からないんだけど、まあ、いいわ。はい。今年は私からのチョコを食べて貰うからね?」
「うん。キミから貰うものなら例え毒が入ってても喜んで食べるよ」
「愛が重い」
「え?どの辺が?」
「いえ、何でもないわ」
今の言葉のどの辺が重いのか良く分からないけど、彼女は頭を抱えるだけで特に何かを言うわけでもないからいいか。
それより、彼女が作ってくれたチョコを食べることの方が僕にとっては重要事項。
料理上手な彼女が作ってくれたチョコだからきっと美味しいだろうな。
綺麗な模様が描かれた宝石みたいなチョコレートを一つ指で摘まんで口に大切に運ぶ。
舌の上で溶けるチョコレートは甘くて僕好みの味だった。
「凄く美味しい」
「それは良かった」
もう一個口に運ぼうとして、途端に意識が白く霞む。
(あれ?)
なんだろう。凄く眠い。
そう思った時には、意識は黒く塗り潰されていた。
「酷いよ!睡眠薬で眠らせるなんて!起きたらバレンタインが終わってたじゃないか!」
「私は別に今年も素直に殺されてあげるなんて言ってない」
「僕からの愛は要らないってこと」
「そんなことは言ってないけど、あのままだったら去年の二の舞だっただろうし、私は今年は穏やかに過ごしたかったの」
貴方とね?
「……っ」
そんな風に言われて、微笑まれたら何も言えないって分かっていてやっているんだから、彼女は怖い。
そうやって僕以外の人間の男も魅力しているのかと思うと、本当に人間を抹殺したくなる。
「気配が不穏。怒ってるの?」
「キミには怒ってない」
「そう。でもダメよ」
「え?」
両頬を包まれて視線を合わせられた。
血の色よりも紅い瞳の中に僕が映る。
「今は私と居るから、だから私以外のことを考えたらダメ」
「……今年はデレの大盤振る舞いだね。僕ちょっと本気で怖いよ」
「たまにはいいでしょう」
微笑んだ彼女と見つめ合い、キスをした。
口の中に僅かに広がる血の味に、僕のチョコちゃんと食べてくれたんだと思いながら深く深く口付けた。
(このまま溶けちゃえばいいのにな)
そうしたら、ずっと一緒に居られるのに。
(ああ、でも、僕の前で死んでくれなかったのは許せないなぁ)
どんなキミでも大好きだけど、僕の知らないところで勝手に死ぬのは許さない。
(死にたくなかったわけでもないなら、もう一回死んでも変わらないよね?)
そう口付けたまま笑って、自分の口内を噛み切った。