2015年バレンタイン

「僕の愛がたーっぷり詰まったチョコレートを召し上がれ」


語尾にハートマークでも付いていそうな勢いの恋人は、何が嬉しいのか分からないがにこにこと上機嫌だ。
いや、恋人は私と居るときはいつも楽しそうではあるが、何もなくて上機嫌な時は何かある時だと今まで一緒に居て学んでいる。
差し出されたのは可愛らしくラッピングされたピンクの包み。
器用だなー、と変なところで感心しながら、恐る恐る受け取った。


「ありがとう」

「どういたしましてー。あ、今食べてね?」

「え?」

「うん?どうかした?今、ここで食べたら何か問題あるの?」

「イイエ、ナニモ」

「そうだよねぇ」


にこにこと嬉しそうな恋人の言葉に顔が引き攣った。
何かしらの細工をされていないかを確かめてからじゃないと非常に怖いというのに。



「……ちなみにさ、ちなみにだけど訊くけどさ、他意はないよ?あくまでも後学の為に訊くんだけど、……アンタ去年のチョコに何入れたっけ?」

「もー。そんなことも忘れちゃったの?僕の唾液だけど?」

「…………ちなみにこのチョコには何が入っているんですかね」

「あはは。それは食べてからのお楽しみ」

「ああ、そう」


教えてくれないってことはつまりはそういうことか。
何かしら入ってはいるだろうなと思っていたけれど。


(食べられるものだといいなぁ)


得体の知れないモノが入っているとは思っていないけれど。
そこまで恋人の心は寛大じゃない。それは本当に良かった。


包みを解いて箱を開ける。
そこには綺麗な薄桃色のチョコレート。
うん。なんだろう。凄く嫌な予感がする。
意を決して一つ指で摘まむと口の中に放り込む。
舌の上で溶けるチョコレート。その風味の中に僅かに感じる鉄の味。


「どう?美味しい?」

「……甘いのに鉄錆びみたいな味がして、凄く、血液な味だわ」

「あったり!今年は僕の血液を混入してみたんだ!」

「……何故に混入したがる」

「何かね。今、女の子の間で流行ってるんだって。本命チョコには体液を混入するの」

「……へぇー」


知らないし知りたくもないし、そもそも何でそんなもん流行ってんの意味分かんない。


「ところでキミからの本命チョコはないの?」

「生憎と体液は入ってないわよ」

「えー」

「えー、って」


唇を尖らせて抗議をする恋人に呆れながら、煩いからわざわざ作ったチョコの包みを渡す。
そんなに体液入りチョコが食べたいのか。


「あはっ。でもいいや」

「は?何が?」

「ううん。ただ、キミの体液は後でたっぷり舐め尽くすからいいかなって」

「ナニソレ怖い」


美味しそうに私が作ったチョコレートを食べながらそんなことを言った恋人に身震いする。
恋人はそんな私を見ながらベロリと親指に付いたチョコを舐めとった。
その目が本気過ぎて今すぐ帰りたい。
が、残念なことに今この場所は私の家でしたとさ。
連れ込みたがりな恋人が私の家を指定した時点で違和感を抱けば良かった。


「すーっごく美味しかったよ。だけど僕、もっと美味しいものも食べたいな」

「あ、はは。それは良かった。じゃあどこか外食でもする?」

「外食なんてする意味ある?こーんなに美味しそうなキミが居るのに、さ」


逃げ出そうとした手を引かれ、床に縫い付けられる。


「次は、キミの番ね?」


顔を盛大に引き攣らせる私なんて意にも介さず恋人はにこりと笑みを作った。
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