2014年クリスマス
今まで散々浮気をされて、それでも私は付き合い続けた。
何故なら私は、恋人が浮気をする原因を知っているからだ。
あの馬鹿はどうやら私に怒って欲しいらしい。嫉妬して欲しいらしい。
そうやって確かめることでしか私に対しての愛情を確認できないらしい。
馬鹿だと本当に思うよ。
そんな馬鹿と今まで付き合い続けてきた私も相当な馬鹿だけれども、それでもやっぱり馬鹿なんだ。
今まで私なりに愛情を伝えてきた筈だ。
怒って欲しいのも、嫉妬して欲しいのも分かっていたから、だからその通りにしてあげた。
まあ、実際。怒っていたのも嫉妬していたのも事実なんだけれども。
その度にあの馬鹿は嬉しそうに笑うのだ。
へにゃりと頬をだらしなく緩め、全身で歓喜を表して。
そんな馬鹿の顔を見るのは別に嫌いではなかった。
その身体から甘ったるい香水の匂いをさせていても、見せつけるように沢山の紅い痕を残されていようとも。
嫌いになることだけは出来なかったのだ。
あの馬鹿と過ごす日々は確かに楽しかった。
嫌なことも楽しいことも全部全部忘れること何か出来ないくらいに。
――まあ、それも今日で終わりになるのだけれど。
『クリスマスは毎年、一緒に過ごそうね?』
それは付き合い始めた頃にあの馬鹿が言った最初の約束。
以来毎年守られてきた私達の大切な繋がり。
そんな大切な約束を、あの馬鹿はとうとう破りやがった。
私と一緒に過ごす筈のクリスマスを、あの馬鹿は今頃見も知らない女と過ごしているのだろう。
その約束だけは絶対に守ってくれていたのに。
数日前にちょっとした喧嘩をした程度で破られてしまうような、そんな陳腐な約束だったのかと思ったら、涙すら出ては来なかった。
変わりに漏れ出たのは乾いた笑いだけ。
もういい加減潮時なのだと告げられているようで。
ならもういいかと、もう終わりにしてやろうと。疲れた心が訴えてきた。
「‘さよなら’くらいは言いたかったんだけどね」
さっきから掛けている電話は一向に繋がらない。無機質な女性の声が響くのみ。
きっとお楽しみの真っ最中で気付いてなんかいないのだろう。
「ばーか」
そう呟いて、電話を切った。
そうして左手で掴んでいた小さな箱を見やって眉を下げた。
「こんなの要らなかったんだよ」
アンタの手から貰わなければ意味なんてなかった、小さな銀色。
寝室で見つけた永遠を誓う約束の印。
こんなものが欲しかった訳じゃなかった。
ただ一緒に過ごせればそれだけで良かった。
どうしようもない馬鹿だけれど、それくらいは分かっていると思っていた。思っていたから一緒に居たのに。
コレを渡してくれるアンタがここに居ないのならば、コレには何の価値も意味もない。
私が欲しかったのは、プレゼント何かじゃなくて。
永遠を誓う証でもなくて。
――ただ、隣に居てくれるアンタだけで良かったのにね。
「本当に馬鹿だね」
ふ、と笑って左手に収まる箱をゴミ箱に投げ捨てると、纏めてあった荷物を手にして、長く暮らした思い出が詰まる家を出た。
「好きだったんだよ。ばーか」
何故なら私は、恋人が浮気をする原因を知っているからだ。
あの馬鹿はどうやら私に怒って欲しいらしい。嫉妬して欲しいらしい。
そうやって確かめることでしか私に対しての愛情を確認できないらしい。
馬鹿だと本当に思うよ。
そんな馬鹿と今まで付き合い続けてきた私も相当な馬鹿だけれども、それでもやっぱり馬鹿なんだ。
今まで私なりに愛情を伝えてきた筈だ。
怒って欲しいのも、嫉妬して欲しいのも分かっていたから、だからその通りにしてあげた。
まあ、実際。怒っていたのも嫉妬していたのも事実なんだけれども。
その度にあの馬鹿は嬉しそうに笑うのだ。
へにゃりと頬をだらしなく緩め、全身で歓喜を表して。
そんな馬鹿の顔を見るのは別に嫌いではなかった。
その身体から甘ったるい香水の匂いをさせていても、見せつけるように沢山の紅い痕を残されていようとも。
嫌いになることだけは出来なかったのだ。
あの馬鹿と過ごす日々は確かに楽しかった。
嫌なことも楽しいことも全部全部忘れること何か出来ないくらいに。
――まあ、それも今日で終わりになるのだけれど。
『クリスマスは毎年、一緒に過ごそうね?』
それは付き合い始めた頃にあの馬鹿が言った最初の約束。
以来毎年守られてきた私達の大切な繋がり。
そんな大切な約束を、あの馬鹿はとうとう破りやがった。
私と一緒に過ごす筈のクリスマスを、あの馬鹿は今頃見も知らない女と過ごしているのだろう。
その約束だけは絶対に守ってくれていたのに。
数日前にちょっとした喧嘩をした程度で破られてしまうような、そんな陳腐な約束だったのかと思ったら、涙すら出ては来なかった。
変わりに漏れ出たのは乾いた笑いだけ。
もういい加減潮時なのだと告げられているようで。
ならもういいかと、もう終わりにしてやろうと。疲れた心が訴えてきた。
「‘さよなら’くらいは言いたかったんだけどね」
さっきから掛けている電話は一向に繋がらない。無機質な女性の声が響くのみ。
きっとお楽しみの真っ最中で気付いてなんかいないのだろう。
「ばーか」
そう呟いて、電話を切った。
そうして左手で掴んでいた小さな箱を見やって眉を下げた。
「こんなの要らなかったんだよ」
アンタの手から貰わなければ意味なんてなかった、小さな銀色。
寝室で見つけた永遠を誓う約束の印。
こんなものが欲しかった訳じゃなかった。
ただ一緒に過ごせればそれだけで良かった。
どうしようもない馬鹿だけれど、それくらいは分かっていると思っていた。思っていたから一緒に居たのに。
コレを渡してくれるアンタがここに居ないのならば、コレには何の価値も意味もない。
私が欲しかったのは、プレゼント何かじゃなくて。
永遠を誓う証でもなくて。
――ただ、隣に居てくれるアンタだけで良かったのにね。
「本当に馬鹿だね」
ふ、と笑って左手に収まる箱をゴミ箱に投げ捨てると、纏めてあった荷物を手にして、長く暮らした思い出が詰まる家を出た。
「好きだったんだよ。ばーか」