2014年クリスマス
「サンタを一狩りしたいと思うんだよねぇ」
「どうしてそうなった!?」
仕事の束の間の休憩時間に某狩りゲームをしている時、同僚の女が突然発したその言葉に思わず声をあげる。
俺たちトナカイとサンタはパートナー契約をし、年に一度のクリスマスの為、そして子供の笑顔の為に馬車馬のごとく働きまくる。
謂わば運命共同体だ。
どうしてそんな相手を「狩る」だなんて言い出したのか。
同僚の女はゲーム画面に視線を落としたまま、淡々と続けた。
「アイツとパートナー契約を結んだ時から決めてたのよ。いつ殺ってやろうかと」
「いやいやだからなんでそうなったのかって訊いてんだよ!」
「そんなの決まってるじゃない。アイツが子供好きだからよ」
「はあ!?」
コイツは何を言っているんだ?
サンタなんて職業をやっている奴に子供嫌いなんて居るわけがない。
何せ子供の笑顔の為に働いているんだ。嫌いだったら続かない。
トナカイの俺らだってそうだ。子供が嫌いでサンタのパートナーなんて出来はしない。
けれど同僚の女は忌々しそうな顔をしながら吐き捨てた。
「アイツは、『重度』の子供好きなのよ」
「だからなんだよ」
子供嫌いより良いだろうと言えば女は何処か遠い目をしながらぼそりと呟いた。
「今年こそ攫う」
「は?」
「だから、『今年こそ攫う』って言ったのよ、あの変態サンタ」
「……一応訊くが何をだ。いや、誰をだ」
まさかとは思いつつも一縷の望みを交えながら訊ねる。
けれどそんな望みはあっさりと切り捨てられた。
「プレゼントを配る予定の子供」
「やっぱりか!!やっぱりなのか!!」
というかあの人ついにそこまで行ったのか!
今まで同僚の女を交えての交流程度しかなかったから確信はなかったが、何処かで信じていたかった。
あの人はただの子供好きなだけで、そんな手遅れな状態ではなかったと。
「ええ。あの男は単なる子供好きじゃなくて、手遅れなペド野郎だったのよ」
「まさかの性対象!?」
外見イケメンの優男がペド野郎……サンタなんてやったら一番駄目な人種じゃないか。
そりゃ、純粋な子供好きである同僚が怒るのが分からないでもない。いや、怒るというか殺意を抱いているといった方が正しいのだがそこには敢えて目を瞑ろう。
「でもなんで今?結構な期間パートナーやってるだろ。お前ら」
「そうだね。もう七年になるのかしらね」
「めっちゃ隙あっただろ」
「……」
「どうした?」
黙り込んだ同僚に訝しげな視線を向ける。
「……のよ」
少しの間そうして黙り込んでいた同僚は何かを呟く。
うん?と首を傾げて問い返せば同僚は今度はハッキリと俺に向かって言葉を放った。
「『僕と共謀して子供を攫うか、我慢してあげますので僕と子供を作るかして、僕の周りを子供で溢れさせてください』って言われたのよ」
「おふ……」
同僚の言葉に思いっきり顔を引き攣らせる。
これが単なる不器用な、そう。ちょっと変わったプロポーズならまだ反応も違っただろう。
しかし相手はペド野郎。子供を性対象としている相手だ。子供なんて作ったら何をされるか分からない。攫うことはそもそも論外だ。
「そんなことを言われたら、もう殺るしかないかなって」
死んだ目をしながら遠くを見やる同僚に、もう同情しか湧いてこない。
というか本当に手遅れだったんだなあの人。
記憶の中で爽やかな笑みを浮かべている同僚のパートナーの顔が段々と薄れていく。
「だからさ、私と共謀してあのペド野郎を葬ろう」
「おい待て。なんでナチュラルに俺が共謀者になっているんだ」
「え?」
「え?なんで「何言ってんだお前」みたいな顔してんの?」
「私たち親友じゃない」
「親友だからって俺に殺人の片棒を担がそうとすんな」
「親友の貞操と子供の貞操が掛かってるんだよ?」
「子供の貞操は心配だが、百歩譲ってもお前の貞操は別に心配じゃない」
「私の貞操イコール子供の貞操なんだよ?」
「じゃあ協会に報告しろよ」
サンタ協会に報告したら、犯罪を犯しそうなサンタを許しはしないだろう。
だからそう言えば同僚は至極真面目な顔をしながら言い放った。
「あんな子供の敵は社会的にではなく物理的に消すべきだと思って」
「じゃあお前が勝手にやれ。俺を巻き込むな」
「アイツが消える。イコール、子供の笑顔が守られる。オーケー?」
「オーケー?じゃ、ねぇよ。何一つ良くねぇよ」
「だったらどうしたら協力してくれるのよ」
「一切協力したくねぇよ」
なんなのこの女。と思ったのが伝わったのか同僚は頬を膨らませた。
そんな顔をしても何とも思わないが。というかいい年した女がそんなことしても可愛くねぇよ。お前可愛い系の女じゃねぇんだから。
と、いうか。
「もうさ、お前らいっそくっ付いちまえば?」
名案だとばかりにそう言えばもの凄く嫌そうな顔をされた。
「あんなペド野郎と付き合うなんて世界にアイツと私しかいなくてもイヤ」
「良く考えろ。お前がアイツの手綱握っとけば子供にも手ぇ出されねぇ。お前にとっては良いことだろ」
「生理的に無理な相手とどう付き合えと?と、いうか、アイツ性対象が子供だから。色々詰んでるから」
「案外イケる気もするけどなぁ」
なんやかんやあの人も同僚となら子供を作れるとか言ってるんだし。
そうは思っても、全身で拒絶している同僚は聞き耳なんて持ちそうもないが。
(つーか、なんでこんな話になったんだ?)
束の間の休憩時間がこんなくだらない話で潰されることになろうとは。
今日こそが一番忙しいのになぁ、とクリスマスを明日に控えている今、切実に思う。
まだパートナーの殺害計画を話している同僚の姿に内心溜め息を吐きながら、それでも現実問題犯罪を起こしそうなサンタの事を思えば無下する事も出来ず、残りの休憩時間を同僚の話に耳を傾けるのであった。
「どうしてそうなった!?」
仕事の束の間の休憩時間に某狩りゲームをしている時、同僚の女が突然発したその言葉に思わず声をあげる。
俺たちトナカイとサンタはパートナー契約をし、年に一度のクリスマスの為、そして子供の笑顔の為に馬車馬のごとく働きまくる。
謂わば運命共同体だ。
どうしてそんな相手を「狩る」だなんて言い出したのか。
同僚の女はゲーム画面に視線を落としたまま、淡々と続けた。
「アイツとパートナー契約を結んだ時から決めてたのよ。いつ殺ってやろうかと」
「いやいやだからなんでそうなったのかって訊いてんだよ!」
「そんなの決まってるじゃない。アイツが子供好きだからよ」
「はあ!?」
コイツは何を言っているんだ?
サンタなんて職業をやっている奴に子供嫌いなんて居るわけがない。
何せ子供の笑顔の為に働いているんだ。嫌いだったら続かない。
トナカイの俺らだってそうだ。子供が嫌いでサンタのパートナーなんて出来はしない。
けれど同僚の女は忌々しそうな顔をしながら吐き捨てた。
「アイツは、『重度』の子供好きなのよ」
「だからなんだよ」
子供嫌いより良いだろうと言えば女は何処か遠い目をしながらぼそりと呟いた。
「今年こそ攫う」
「は?」
「だから、『今年こそ攫う』って言ったのよ、あの変態サンタ」
「……一応訊くが何をだ。いや、誰をだ」
まさかとは思いつつも一縷の望みを交えながら訊ねる。
けれどそんな望みはあっさりと切り捨てられた。
「プレゼントを配る予定の子供」
「やっぱりか!!やっぱりなのか!!」
というかあの人ついにそこまで行ったのか!
今まで同僚の女を交えての交流程度しかなかったから確信はなかったが、何処かで信じていたかった。
あの人はただの子供好きなだけで、そんな手遅れな状態ではなかったと。
「ええ。あの男は単なる子供好きじゃなくて、手遅れなペド野郎だったのよ」
「まさかの性対象!?」
外見イケメンの優男がペド野郎……サンタなんてやったら一番駄目な人種じゃないか。
そりゃ、純粋な子供好きである同僚が怒るのが分からないでもない。いや、怒るというか殺意を抱いているといった方が正しいのだがそこには敢えて目を瞑ろう。
「でもなんで今?結構な期間パートナーやってるだろ。お前ら」
「そうだね。もう七年になるのかしらね」
「めっちゃ隙あっただろ」
「……」
「どうした?」
黙り込んだ同僚に訝しげな視線を向ける。
「……のよ」
少しの間そうして黙り込んでいた同僚は何かを呟く。
うん?と首を傾げて問い返せば同僚は今度はハッキリと俺に向かって言葉を放った。
「『僕と共謀して子供を攫うか、我慢してあげますので僕と子供を作るかして、僕の周りを子供で溢れさせてください』って言われたのよ」
「おふ……」
同僚の言葉に思いっきり顔を引き攣らせる。
これが単なる不器用な、そう。ちょっと変わったプロポーズならまだ反応も違っただろう。
しかし相手はペド野郎。子供を性対象としている相手だ。子供なんて作ったら何をされるか分からない。攫うことはそもそも論外だ。
「そんなことを言われたら、もう殺るしかないかなって」
死んだ目をしながら遠くを見やる同僚に、もう同情しか湧いてこない。
というか本当に手遅れだったんだなあの人。
記憶の中で爽やかな笑みを浮かべている同僚のパートナーの顔が段々と薄れていく。
「だからさ、私と共謀してあのペド野郎を葬ろう」
「おい待て。なんでナチュラルに俺が共謀者になっているんだ」
「え?」
「え?なんで「何言ってんだお前」みたいな顔してんの?」
「私たち親友じゃない」
「親友だからって俺に殺人の片棒を担がそうとすんな」
「親友の貞操と子供の貞操が掛かってるんだよ?」
「子供の貞操は心配だが、百歩譲ってもお前の貞操は別に心配じゃない」
「私の貞操イコール子供の貞操なんだよ?」
「じゃあ協会に報告しろよ」
サンタ協会に報告したら、犯罪を犯しそうなサンタを許しはしないだろう。
だからそう言えば同僚は至極真面目な顔をしながら言い放った。
「あんな子供の敵は社会的にではなく物理的に消すべきだと思って」
「じゃあお前が勝手にやれ。俺を巻き込むな」
「アイツが消える。イコール、子供の笑顔が守られる。オーケー?」
「オーケー?じゃ、ねぇよ。何一つ良くねぇよ」
「だったらどうしたら協力してくれるのよ」
「一切協力したくねぇよ」
なんなのこの女。と思ったのが伝わったのか同僚は頬を膨らませた。
そんな顔をしても何とも思わないが。というかいい年した女がそんなことしても可愛くねぇよ。お前可愛い系の女じゃねぇんだから。
と、いうか。
「もうさ、お前らいっそくっ付いちまえば?」
名案だとばかりにそう言えばもの凄く嫌そうな顔をされた。
「あんなペド野郎と付き合うなんて世界にアイツと私しかいなくてもイヤ」
「良く考えろ。お前がアイツの手綱握っとけば子供にも手ぇ出されねぇ。お前にとっては良いことだろ」
「生理的に無理な相手とどう付き合えと?と、いうか、アイツ性対象が子供だから。色々詰んでるから」
「案外イケる気もするけどなぁ」
なんやかんやあの人も同僚となら子供を作れるとか言ってるんだし。
そうは思っても、全身で拒絶している同僚は聞き耳なんて持ちそうもないが。
(つーか、なんでこんな話になったんだ?)
束の間の休憩時間がこんなくだらない話で潰されることになろうとは。
今日こそが一番忙しいのになぁ、とクリスマスを明日に控えている今、切実に思う。
まだパートナーの殺害計画を話している同僚の姿に内心溜め息を吐きながら、それでも現実問題犯罪を起こしそうなサンタの事を思えば無下する事も出来ず、残りの休憩時間を同僚の話に耳を傾けるのであった。