2013年クリスマス

「クリスマスと言えば肝試しが定番ですよね!」

「すげえ。俺の定番が覆された気がする」

「そんなわけで肝試ししましょう!いい感じの噂とかが流れている廃病院を見つけたので!大丈夫。私と先輩なら難なく乗り越えられます!」

「何を乗り越えるのか聞いていい?あ、やっぱ言わなくてもいいわ。どうせロクなことにならないから」

「レッツ☆肝試し」

「人の話を聞けって言ってもお前は聞かない子だよね。知ってた」















「こんなことが起きるんじゃないかと思ってましたよええ」

「先輩先輩。窓も割れないみたいですよ!」

「ああ、うん。玄関も駄目だった」

「どうしましょうねぇ、……あ、チョコ食べますか?」

「なんつーマイペースな」

「ケーキも持ってきたんですよぉ。先輩と食べようと思って」

「お前良くこんな所で食う気になれるね。すっげぇ生臭いし空気重いし視線バリバリに感じるのに」

「ああ、慣れてますから」

「なんで慣れてんのとか絶対聞かない」

「あ、お塩の結界が溶けてきましたね。そろそろヤバそうなんでケーキさっさと食べちゃいましょうか」

「普通補強とかしない?なんでケーキ優先?」

「だって別に怖くなんてないですし」

「だろうね!俺は絶賛ビビってるけどね!」

「先輩怖がりさんだったんですか?じゃあなんで肝試し付いてきたんです?」

「……それは、お前が心配だったから」

「はい?それは、なんですか?うるさくて聞こえませんでした」

「何でもね、……俺と二人しか居ないのに……うるさい……?」

「厳密には先輩と私と、あとこの病院で亡くなった方と肝試しに来て連れてかれた方々が居ますから二人きりじゃないですよ?あ、生きてるのは私と先輩の二人だけですけど」

「……もう帰りたいんですが」

「ダメですよぉ先輩。まだチーズケーキとチョコケーキとタルトとブッシュドノエルとモンブランがあるんですから!」

「やけに大きなリュックだなとか思ってたけどそんなに持ってきてたの!?お前の食欲の方が怖いわ!!」

「だって、先輩の好みとか知りませんし」

「俺はシンプルにショートケーキが好き、じゃなくて。いい加減帰ろうぜ。気分悪くなってきた」

「どうやって?」

「は?」

「さっき先輩自分で確認したじゃないですか。玄関が開かないって。それに窓も壊せない。じゃあ、どうやって出るんですか?」

「……え?お前、慣れてるんだよね?」

「はい」

「ここから出る方法知ってたり…」

「まあ、ここに閉じ込めた元凶を倒せば帰れるとは思いますけど」

「じゃあ早くその元凶を倒しに行こうぜ?」

「それは無理ですねぇ」

「……なんで?」

「実は、ケーキ持ってくるのに必死で塩とかお札とかその他色々忘れて来ちゃって☆」

「……」

「あの、先輩?生きてますかぁ?」

「……」

「大変だ。気絶してる。このままじゃ先輩がお仲間になっちゃうなぁ」


ちょっとした冗談だったんだけど、と呟いて。


「先輩。本当に怖いのダメだったんですねぇ。なんで付いてきてくれたんだろ。あ、強引に連れてきちゃったからか」


でもこうでもしなきゃ先輩と一緒にクリスマスなんて過ごせないと思ったからしょうがないじゃなないですかと1人愚痴りながら、気を失った先輩の周りに新しい盛塩と酒で作った結界を作り、ついでとばかりに先輩にお守りを握らせておく。


「怖がらせてすみません。すぐに終わらせてきますから、ちょっと待ってて下さいね?それと、」


ここから出た後も避けないでくれますか?


「なーんてね。ちょっと高望みしすぎかな?」


なはは、なんて笑って、よいしょ、と屈伸運動をすれば。
聖夜にはふさわしくないグロテスクな姿をした半透明な元人間が犇(ひし)めく中を歩き、元凶が居るであろう廃病院の奥に進んでいった。
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