継彩―つぐいろ―

縁側で煙管をふかしている俺の元に彩都が現れた。
そのまま何も言わずに隣に座ると酒をドンっと置く。

「テメェ、とうとうやりやがったな」

「まあ、美味しく頂いたのは事実だけど、そんなに怒ること?」

「想いが通じ合ってその場で食ったのかよ!いや、それを実の兄に言うな。心が折れそうになるから」

「未だに蛇娘に追っかけられてるだけな彩都も早く食べちゃえばいいのに」

蛇は猫が捕食する側でしょ?
そう言えば彩都は頭を抱えた。

「あの小娘は男がどういう生き物なのかまったく理解してないから、食うに食えん」

「彩都は真面目だなぁ」

「俺にしてみれば、良くぞ彩葉を手に入れてくれやがったなこんちくしょう、だけどな」

「んふふー。俺にしては我慢したんだよ?」

「そうだろうなぁ」

何せお前が俺と仲良くなろうとした理由が、彩葉なんだから。

「十年目の真実ってやつだね」

「まあ、俺も似たようなもんだからなんとも言えねぇけどな」

「お互い様ってやつだね」

「……良く、神様を退けてくれた。礼を言う」

「お礼するってことは、祝福してくれるってこと?」

「ああ、彩葉は何せ、前世からお前を慕っていたんだからな」

「俺には実感わかないけど、それはそれでムカつく」

「あ?なんでだよ?前世から想われて、今生でも慕われて、お前的には喜ばしいことだろうが」

「だってさぁ……。猫族は『一度も』他の種族の血を入れてないんでしょ?それってつまりは、前世とやらの俺が他の女を娶ったってことでしょ」

いとしい存在を置いて。
どれだけ泣いたのだろう。どれだけ苦しかったのだろう。
俺を想っている心を諦めてしまう程に、彩葉ちゃんはつらかったのだろう。悲しかったのだろう。
自分を愛してくれる存在が、他の女を抱いて子を生したのだから。

「俺はこの血すらも呪う。でも、今の彩葉ちゃんに出逢わせてくれたことには感謝する」

「知ってたけどお前結構、彩葉のことに関しては過激派だよな」

「なんとでも言ってよ」

そう笑えば、彩都が持ってきてくれた酒を煽った。

「今日は月が綺麗だねぇ」

膝の上に眠る彩葉ちゃんの髪を優しく梳きながら、俺は目を細めた。
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