金と灰の右目

「流石にコンタクトを全て遮断されたら、俺も我慢ならない」

「あー。ギドさん嫉妬深いもんね」


女の横で固まっていた黒髪の青年は納得したようにほんわかと笑う。
タレ目の目尻を更に下げたせいか、何とも言い難い。例えるなら見るものを幸福にする福の神のような顔だ。
あくまでも外見だけで、中身はとんでもない男だが。
整っている顔のせいか妙な迫力がある。


「悪い虫が付いたんじゃないかって、心配なんでしょう?」


ギド、と呼ばれた男はその言葉にピクリと眉を跳ね上げ、けれど肯定の言葉を示す。


「貴様に言われるのは癪だが。――全くもってその通りだ」

「相変わらず変に素直じゃないよねギドさんは」


ふふ。と手にしたサブレをサクサクとかじる青年にツンとそっぽを向く。
口に含んだサブレを飲み込む音がした後、「でも確かに」と青年は続けた。


「ギドさんが心配になるのも分かるよ。セレフィナさんって放浪中も何かしら連絡は寄越してたもんね?」


ねぇ、シルフィ?と横に座る妻の名を呼んで同意を求める青年。
紅茶に口を付けて傍観を決めようとしていたのか、いきなり夫に話を振られてぱちりと瞬きをひとつする。
そして意味深に口端を吊り上げた。


「確かにセレフィナとは付き合いも長いですが、あの子。誰かしらに連絡は寄越しますからねぇ」

「セレフィナの知人には全員会った。が、誰も知らないと返してきた。だから、お前のところに来たんだよ」

「わたくしの所に最後に来る辺り、あまり必死さは感じませんわねぇ」


シルフィの言葉に決まり悪げに「ここまで拒絶されるなんて思わなかったんだよ…」と差し出された紅茶を漸く啜った。
「相変わらず猫舌ですわね?」とシルフィがからかう。
知っているなら毎回熱湯のような温度のものを出すなと言うようにジトリと睨む。
実際は適温なのだが、水に近い低温しか口に含めないギドにとっては熱湯という表現が正しいだろう。


「いや、でもギドさんがシルフィを訪ねて来る辺り必死だよね」

「ふふ。まあそうですわね。ギドは昔からセレフィナの側に居るわたくしを良く思っていませんでしたもの」

「僕と結婚してからは、そこまで好戦的じゃなくなったんだよね?」

「ええ。本当にジルには感謝しなければいけませんわ。もう毎回毎回ギドと会う度に辛くて……」

「可哀想なシルフィ。大丈夫。僕がずっと守って上げるからね?永遠に」

「ジル……」

「なあ。話続けていいか?」


何が辛くて、だ。毎回殺る気満々で向かってきたのはむしろお前だろうが。
あとジルも分かってて乗るなよ。というか発言が怖ぇよこのヤンデレ夫が。


などと思ったが、目の前で繰り広げられる茶番に付き合う気も口を挟む気も更々ないので内心だけに留める。
割り込むように口を開けば、愛しい妻との時間を邪魔されたジルに射殺さんばかりに睨まれたが。
その程度の睨みに屈するほど伊達に目の前の青年より何倍も歳を食っている訳ではない。
何より今は目の前の夫婦よりも己の妻が第一だ。
決して、


「目の前でいちゃつくとかふざけるな。俺に対する当て付けか?」


なんて思ったが為ではない。ああ、断じて。
2/4ページ