ようやく君を手に入れた

尊敬する兄が居た。
国の平和を望み、人々を導く力のある、聡明で強い人であった。


好きな人が居た。
兄の側に居て、王として育てられた兄を叱る事の出来る兄の友人。
ふわふわとした春のような雰囲気を纏うくせに芯が強くて頑固な愛しい人であった。


幼い頃から見ていた二人の背中。
二人で一対なのだと子供心に思った事がある。
それほど迄に似合いな二人で。
その二人に見合うだけの男になりたいと、努力を惜しんだ事はなかった。


それが変わったのは、兄が王となった時。
隣国から姫君を娶った日。

兄の隣は彼女以外有り得ないと思っていた俺にとって、正に青天の霹靂であった。
こんなことが起きて良い筈がないと。


(けれど何処かで考えて居たんだ


もしかしたら彼女が俺を見てくれるかも知れないと。
彼女に対して募らせた気持ちを余すことなく伝えれば、俺を愛してくれるかも知れないと。


そうしてその願い通りになった時。
そこで満足してしまえば良かったのに。


――俺は欲を出してしまった。



「君の心も身体も、確かに俺のモノだった筈なのに、」


――君はいつだって兄上ばかりを見上げては、笑うのだ。


悔しくて、悔しくて、どうしようもなく苦しくて。
いつかこの身の内に潜むドロドロとした醜い感情が、二人を殺してしまうのではないかと思った時。


あの子と出会った。


君が絶対に言わないようなまっさらで逸そ暴力的な迄に綺麗な言葉を吐き捨てる彼女に、妬み羨みそれでも憎めなかった俺の疲れ果てた心は魅了された。


「……分かってたんです。それがただ逃げているだけだって」


それでも逃げずに居られないくらい苦しかったから。
敬愛する兄上の言葉をはね除け、心からいとおしいと思っている彼女を捨ててでも。


「……救われたかった」


逃げた者に救いなど、存在する筈もないと云うのに。


眼前に横たわる二人の身体。
兄上は玉座と引き替えに長年想い続けた彼女を手に入れ、彼女は最期まで俺に一度も視線をやる事なく、けれども俺を想いながら兄上の側で死んでいった。


「……っ、ぁ」


無くしてから初めて後悔をする。



――そんな俺は兄上が言った通り、どうしようもない程、愚かなようです。
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