それが間違った方法だとして

好きな人だから守りたかった。
その方法が人に誉められるような事では無くても。


「兄上が可哀想だな」


ポツリと聞こえた第二王子の言葉に薔薇から視線を外し、第2王子が此処に来てから初めて彼の姿を真っ直ぐと視界に入れた。


「ルーク様が可哀想?」


こてり。首を傾げる。


「睨むなよ。ただ、お前みたいな奴に好かれて苦労するんだろうなって心配したんだよ」


ああ、と唇を歪めた。


「それは私も思いますよ」


何せ私みたいな性格の悪い女に惚れられてしまったのですから。
けれど、


「あの方は私以上に感情を知らな過ぎます。だからこそ心配でならなかった」


潰れてしまいそうな程、荷を背負っていると言うのに。その荷を決して分け与えてはくれない。
ただひとりで全てを何とかしてしまおうとする。
いや、もしかしたら荷が乗っている事にすら気付いていないのかも知れない。

だからこそ。そんなルーク様を救う方法がこれ以外思い付かなかった。


信じていた国王と、慕われていたと思っていた弟。
その2人に自分の存在価値であると考えていた王位を奪われ、その上、宰相として隣国に行く事を命じられた。
それによってルーク様が傷付くと分かっていたけれど。
ルーク様を自由にして差し上げたかった。


(その思惑が叶ったのは良かったけれど、何故か第2王子の正室にされた時には流石に焦りました)


彼と結婚するくらいなら死んだ方がまだマシだと云うものなのに。
ルーク様がプロポーズをして下さったお陰で話は無くなったから良かったけれど。


「……なあ、リア?兄上は本当に救われたと思うだろうか」

「何ですか突然」


ふ、と遠い目をしていた時に掛けられた言葉に首を傾げて見せる。
そうすれば彼は少しだけ口ごもりながら口を開いた。


「いや、だってさ。俺は兄上を傷付けたし。それにかなり嫌われた自覚があるからさ……」

「貴方にとっては後者が重大事項なのでしょうが、そんな事は知りませんよ。それにルーク様の傷は私が全力で癒してみせますからどうかご安心を」

「……はは。リアが言うと何か説得力あるよな」


へらりとルーク様と似た顔立ちで、けれど全然違う力無い笑顔を見せる第二王子。
けれど正直。彼がいくら傷付いていようが関係ない。
私にとっての最大重要事項はルーク様。

第二王子を通してお見掛けした日からずっと好きだった。
ルーク様は忘れているようだけれど、一度だけ声を掛けて頂いた事があった。
それがどれだけ嬉しい事であったか。ルーク様は知らないでしょう。
ルーク様が忘れていらっしゃられる限り、私だけの秘密。


この半月。ルーク様はただ無心に宰相としての勉学に励まれていらっしゃられた。
内心では私ですら計り知れない程の憎悪があるのだろうとは思う。
繊細故に裏切られたと感じやすい方だから。


けれどそれでも。
陛下の事も目の前の彼を根底から嫌っているわけではないのだろうから。
そうでなければ陛下直々の命だと言われても、宰相として何年も隣国に行くだなんて。
いくらルーク様でも王位を奪われた直後に簡単に飲み下せるような事ではない。


「まあ何だ。兄上は明日経たれるのだろう?」

「ええ。もう荷造りは終えていますから滞りなく。次に帰ってくるのは何年後になるのですかね」


二、三年は軽く見積もっても帰っては来れないでしょうし。
目標は、次に帰って来る時までに子供の一人でも生んでおくことでしょうか。
……いいえ。二人は産んでおきましょう。
ルーク様に家族を作って差し上げたいですし。どうせなら多い方がいい。


そうこれからに思いを馳せながら、唇に弧を描く。


「まあ貴方は精々、この王宮でルーク様のお側でルーク様が幸せになっていくのを見ることが出来る私を存分に羨ましがっていて下さいませ」

「ほんっとお前性格悪いよな!兄上にお前の本性言ったら卒倒すんじゃねぇの?」

「ルーク様は私の本性にはお気付きだと思いますよ?私、ルーク様以外には冷たいですから」


ルーク様は愛情に飢えた方だからなのか。
私がルーク様を優先したり特別視したりすると、ほんの少しだけ嬉しそうに笑われる。
それを見るととても嬉しくて、益々ルーク様に見も心も堕ちていく。
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