それが間違った方法だとして
大国の第一王子として生まれ、何不自由なく暮らし。王になる為にと勉学に勤しみ。他の弟や妹達のように父や母に甘えた事はなかった。
それが当たり前だった私にとって、何の疑問も抱かずに日々を王になる為に費やしてきた。
そんな日々に現れたのが二年前。
私が十九の時に正室候補として連れられてきた、私よりも五つ下の少女と呼べる彼女だった。
『末永く宜しくお願い致します。ルーク殿下』
スカートを持ち上げて腰を落とし、台本でも読み上げているかのように淡々と感情なく言葉を発する、私の『正室候補』としてやって来た彼女――リア。
リアを一目見て瞬間的に感じた。
――私と同じだ。
ただ人形のように言われたままを生きる者だと。
けれどだからと云って。
それ以上に何かを思うことも、その必要性もなかった。
彼女は次期国王の正室候補として来たのだから。
私がすることは何時だって、王になる事だけなのだから。
けれどリアは、その何も写していないような瞳で。
何時からか私の心を乱すようになった。
「ルーク殿下、こちらを第三王子より頂いたのですが……どう致しましょう?」
「……何故私に聞く?飾るなり何なり好きにすればいいだろう」
赤い薔薇の花束を抱えたリアは、首を傾げて私に訪ねてくる。
どうすれば、とはどういうことなのだろうか?
リアが貰った物だ。私にわざわざ聞いてくる必要はないだろうに。
横目でその花束を見て、それを渡したのがリアに密かに想いを寄せている第三王子だと言うことに何故か心臓が焼けるような感覚がしたが。
それに違和感を覚えながらも思ったままにそう言えば、リアは常と同じく淡々とした調子で口を開いた。
「私は自分の感情には疎いですが、他者の感情にまで疎いわけではありませんから」
一概に、この花束に隠されている下心には気付いていると言ったリアに目を見張る。
美しく才溢れる彼女だ。幼いとはいえ、今までそういった感情を向けられたことがない訳ではないらしい。
けれどそれなら尚更だ。
何故私に聞いてくる?
迷惑だと感じたなら捨ててしまえばいいものを。
「お前がしたいようにすればいいだろう」
「それはそうですが。私は殿下の正室候補ですから。殿下が受け取れと言われれば受け取りますし、捨てろと言われたら捨てますが、」
そうですね。と一度区切って。
「では、火にでもくべましょうか」
「は?」
「どうか致しましたか?殿下」
いくら正室候補だとはいえ、仮にも王子からの贈り物を火にくべる等と言うとは。
あまりの驚きに間抜けな声が出る。
リアは心底不思議そうな顔をして、けれど薔薇の花束をさっさと侍女に渡して処分するように言っていた。
正室候補とは云え、候補は候補。決定ではないのだから、他の王子と繋がりを持っていればいいものを。
『私は殿下の正室候補ですから』
そう何て事ないように言った彼女に暖かいものが生まれたのと同時にふと、思う。
「私が同じようにお前に薔薇を贈ったら、同じように火にくべるか?」
それはただの疑問。
あまりにも陳腐な言葉。
彼女は私の正室候補だから受け取れないと云ったのに。
この言葉は何の意味もない、ただの時間の浪費でしかない。
そう分かっているのに、聞かずにはいられなかった。
「殿下が何を仰りたいのか良くは分かりませんが、先程も申し上げましたが私は殿下の正室候補です。殿下よりの賜り物でしたら喜んで部屋に飾らせて頂きますよ」
「……そうか」
返ってきた答えは予想していたものと寸分違わない。
『正室候補』だから私からは受け取って。
『正室候補』だから第三王子からは受け取らない。
どこか非情にも感じる彼女の言葉は、何故か私の胸を温かくする。
これは何なのだろうか?
どの書籍を読んでも一向に分からない。
分からないというのに、熱は日増しに増えていった。
それが当たり前だった私にとって、何の疑問も抱かずに日々を王になる為に費やしてきた。
そんな日々に現れたのが二年前。
私が十九の時に正室候補として連れられてきた、私よりも五つ下の少女と呼べる彼女だった。
『末永く宜しくお願い致します。ルーク殿下』
スカートを持ち上げて腰を落とし、台本でも読み上げているかのように淡々と感情なく言葉を発する、私の『正室候補』としてやって来た彼女――リア。
リアを一目見て瞬間的に感じた。
――私と同じだ。
ただ人形のように言われたままを生きる者だと。
けれどだからと云って。
それ以上に何かを思うことも、その必要性もなかった。
彼女は次期国王の正室候補として来たのだから。
私がすることは何時だって、王になる事だけなのだから。
けれどリアは、その何も写していないような瞳で。
何時からか私の心を乱すようになった。
「ルーク殿下、こちらを第三王子より頂いたのですが……どう致しましょう?」
「……何故私に聞く?飾るなり何なり好きにすればいいだろう」
赤い薔薇の花束を抱えたリアは、首を傾げて私に訪ねてくる。
どうすれば、とはどういうことなのだろうか?
リアが貰った物だ。私にわざわざ聞いてくる必要はないだろうに。
横目でその花束を見て、それを渡したのがリアに密かに想いを寄せている第三王子だと言うことに何故か心臓が焼けるような感覚がしたが。
それに違和感を覚えながらも思ったままにそう言えば、リアは常と同じく淡々とした調子で口を開いた。
「私は自分の感情には疎いですが、他者の感情にまで疎いわけではありませんから」
一概に、この花束に隠されている下心には気付いていると言ったリアに目を見張る。
美しく才溢れる彼女だ。幼いとはいえ、今までそういった感情を向けられたことがない訳ではないらしい。
けれどそれなら尚更だ。
何故私に聞いてくる?
迷惑だと感じたなら捨ててしまえばいいものを。
「お前がしたいようにすればいいだろう」
「それはそうですが。私は殿下の正室候補ですから。殿下が受け取れと言われれば受け取りますし、捨てろと言われたら捨てますが、」
そうですね。と一度区切って。
「では、火にでもくべましょうか」
「は?」
「どうか致しましたか?殿下」
いくら正室候補だとはいえ、仮にも王子からの贈り物を火にくべる等と言うとは。
あまりの驚きに間抜けな声が出る。
リアは心底不思議そうな顔をして、けれど薔薇の花束をさっさと侍女に渡して処分するように言っていた。
正室候補とは云え、候補は候補。決定ではないのだから、他の王子と繋がりを持っていればいいものを。
『私は殿下の正室候補ですから』
そう何て事ないように言った彼女に暖かいものが生まれたのと同時にふと、思う。
「私が同じようにお前に薔薇を贈ったら、同じように火にくべるか?」
それはただの疑問。
あまりにも陳腐な言葉。
彼女は私の正室候補だから受け取れないと云ったのに。
この言葉は何の意味もない、ただの時間の浪費でしかない。
そう分かっているのに、聞かずにはいられなかった。
「殿下が何を仰りたいのか良くは分かりませんが、先程も申し上げましたが私は殿下の正室候補です。殿下よりの賜り物でしたら喜んで部屋に飾らせて頂きますよ」
「……そうか」
返ってきた答えは予想していたものと寸分違わない。
『正室候補』だから私からは受け取って。
『正室候補』だから第三王子からは受け取らない。
どこか非情にも感じる彼女の言葉は、何故か私の胸を温かくする。
これは何なのだろうか?
どの書籍を読んでも一向に分からない。
分からないというのに、熱は日増しに増えていった。