アンタの居ないこの世界に

沸き上がる歓声も罵倒も。
アンタを磔にしている木が音を立てて爆ぜる音も。
その全てを気にした様子もない。
城に居た時と何ら変わりないアンタをただ見つめる。


(ああ。こんなに煩かったら誰にも聞こえないだろうか)


俺の言葉は誰にも届かないだろうか。
なら、言ってもいいだろうか?


俺の一生分の気持ち



「     」



こんな煩い中でもアンタにはちゃんと聞こえていたのか、目を見開いて呆けていた。
それに小さく笑えば、泣きそうな顔を向けられた。



アンタから聞いた話だけどさ。
きっとアンタは誤解してるよ。

王がわざわざ俺の前でアンタに自分を殺させたのは、ただアンタに逃げ道を作る為だと思っていたみたいだけど。
本当は俺がアンタに好意を抱いていると気付かれていたからなんだ。
アイツは変な所で聡いから。
アンタが俺に対して抱いていた感情にも気付いてたんだぜ?
決して男女の愛ではないけれど、他の人間に向けるものとは違うソレを、アイツは知っていたんだ。



「なあ、俺の顔はそんなに会いたい男に似ていた?」



それともただ懐かしかっただけ?懺悔でもしたかった?


別に責める気はねぇよ。
アンタに好かれる顔だったなら、この顔に生まれて感謝したいくらいさ。


だけど王は、アイツは気に入らなかったんだろうな。
どんな感情も自分だけに向けて欲しかったんだろうから。
それが口で言えるほど素直でも器用でもないから、こうなっちまったんだろうけど。


アイツは『殺せ』と言えばアンタが迷わず自分を殺すと分かっていたんだろう。
アンタにとって王はずっと殺したいほど憎くて憎くてしょうがない相手だったんだもんな。


だけど、アンタは誰よりも優しかったから。
たとえ自分の恋人を目の前で殺されても。
その殺した本人に嫁がなければいけなくなっても。


アンタは王を恨みきれなかった。
それどころか不器用な王に好意を抱き初めてしまった。


その事で自分を責めたその苦悩を、アイツはきっと知っていた筈だ。
誰よりもアンタを見ていたアイツだから、知っていた筈だ。


――アンタが迷わず、自分を追ってくる事さえも。


ああ。まるで全てがアイツの掌の上で起こっている事のようじゃないか。


そりゃあ何だか癪だなと肩を竦める。
だけど。まあ、いいか。
何せ1つだけ、あの王様は読み違えちまったんだから。


「俺は諦めが悪いって、忘れてんだろ」


炎が全てを包み込み、灰になって消えたとき。
俺は一本のナイフを取り出すと、自分の首を掻き切った。



『アンタが好きだよ。死んでも好きだ』



いつの間にか、気付いたら惚れていた。
だから例えアンタが誰を思っていたとしても俺には関係ない。
俺はアンタが居ない世界に、興味は無いからさ。
あの世とやらでは仲良くしようや。
俺の不器用な幼馴染みとアンタの恋人がどういう会話をするのか。


ああ、今から楽しみだ。
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