願うだけでは足りないけれど

「――逸そ俺が魔族だったらなぁ」


それか彼女が天界の住人だったなら。
全ては上手くいっていたのだろうか?


「神様。そんな事を戯れにでも口に為さらないで下さい」


声に出した願いは冷めた現実に打ちのめされて。
種族の壁は神である俺でも、いや。
神であるが故にどうにも出来ない。


悪魔が天使に恋することも。
天使が悪魔を伴侶にする事も。
全部普通に行われているというのに。


『神』と『魔王』にだけはその『普通』が当て嵌まらない。


世界の均衡を保つため。
そんな理由で俺達が想い合う未来は永劫来ないのだ。



いつの日か。
彼女は魔王たる自分に相応しい男と結婚するのだろう。
血筋よりも力を重視する魔族だけれど、力有る者には子孫を期待されるから。
そして責任感のある彼女は必ずそれに応えようとするのだろう。

そうして俺も。
血筋を大切にする天界の意に添うように見知らぬ女と婚姻を結び子を作るのだ。
『神』は世界樹が決めるけれど。
神の子が生まれる事に意義があるから。


見知らぬ男との間に産まれた子供を慈しむ彼女を、俺は指を咥えて見ているしか出来ないのだ。


(ああ。嫌だなぁ)


彼女が俺以外の男に触れられるなんて。
考えただけで気が触れそうだ。


(触れ合うことすらまともに出来ないというのに)


彼女を誰にも渡したくない。
なんて、


(俺が言えるべき言葉じゃないよなぁ)


ああ。もう本当に、


(キミを拐ってしまおうか)


――なんてね?
今あるモノを捨てる覚悟すら無い俺がそんな事、出来る訳もないのだ。
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