復讐劇を始めようじゃないか

元々壊れ掛けていた彼女はいとも簡単に壊れてしまった。


「でも、もう、」
「ん?どうしたの」
「……いえ何でも」
「ない、は俺の前ではしないで?って言ったよね。言ってよ。言ったでしょ?俺が何からも全力で守ってあげるって」
「……そうでしたね。ごめんなさい。……ただ、観月さんにあんな人達と関わって欲しくないと思ったんです」


そう困ったように眉を寄せて言いながら、小さく細い手でそっと俺の頬を撫でる柚希。
そんな柚希に頬が緩む。
すり、とその手に甘えるように頬を擦り寄せながら軽薄に笑った。


「ふふ。おばかさんだなぁ柚希は」


甘えるような声で「忘れたの?」と耳元に唇を寄せて囁く。


「柚希を守るって言ったんだから、柚希を苦しめるアイツ等は遅かれ早かれ俺の駆除対象なの」


「分かってないゆずにはお仕置き」と、ぎゅうっと抱き締める腕に更に力を込める。
そしてついでとばかりに背中を丸めて、首に顔を埋めれば、ちゅ、と音を立てて首筋を吸い上げた。
そうすれば首筋には俺が付けた華が咲く。
満足げに唇でなぞりながら柚希を上目遣いで見上げて言う。


「キミは俺に何の遠慮もしなくていいんだよ」


その代わり。
一緒に駄目になってしまおう。
一緒に駄目になって欲しい。
告白にしてはあまりにも残酷で。
プロポーズにしてはあまりにも陳腐。
けれど俺にとっての精一杯の優しさ。


「ねえ。まずは誰から復讐しようか?」


キミを貶めたヤツ?
キミを蔑んだヤツ?
キミを辱しめたヤツ?
キミを――信じなかったヤツ?


誰からでもいいよ。
どうせ全員に復讐するんだから。


「なら、――」


言われた名前に自然と口角が上がって。
確かに妥当だと頷きながら。
それでもアイツの名前じゃないことに苛ついた。
まだキミの中にアイツが存在しているのかと思って、無意識に柚希の肌に爪を立てる。

柚希はそんな俺にうっすらと微笑みかけて、クイッと袖を引いて内緒話をするように甘く囁いた。


「最後は、あの人をお願いします」
「……もちろんだよ。はは。今から楽しみだ」
「ふふ。私も楽しみです」


ああ、キミを一瞬でも疑ってしまった自分を殴りたい。
不安に思うことなんて何処にも無かったというのに。


キミはもう、元に戻らないくらい壊れてしまっているからね。
壊れていってしまったからね。


きっともう心から笑うキミには会えないのだろう。
俺を救ってくれた、強く、真っ直ぐなキミとは。


でもそれでもいいんだ。
一人で苦しませてしまうくらいなら。
一人で泣かせてしまうくらいなら。
ずっと壊れたままで居て欲しい。


安心してね。
俺が絶対に一人にはしないから。
俺が一緒に壊れていってあげるから。


こんな風に壊れてしまったキミを恋人気取りのアイツはなんて思うかな?
想像したら笑ってしまった。
きっと「何をしたんだ」と憎しみを浮かべて言うのだろう。
すべてを知ったアイツはきっと今までのことを悔いて悔いて。
元の柚希を取り戻そうと躍起になるんだろう。
それが柚希を更に壊して追い詰めるだなんて気付かずに。


ああ。後悔するといい。
柚希を信じず、自分の欲望を優先したことをを。


一生、ね?



『復讐劇を始めようじゃないか』



まあ、後悔するのは俺も一緒なんだけど。
柚希が一緒なら、なんでもいいか。
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