復讐劇を始めようじゃないか

柚希は俺の手を取った。
どんなことがあろうとも。
例えばまだ恋人のことが好きだったとしても。

柚希は心も身体も傷付き過ぎたんだ。
だからそれを癒すように、俺は柚希に尽くして。思いっきり甘やかして。

最初は警戒心やら人間と接触することに怯えさえ見せていたけれど。
努力?の甲斐あってか、俺の腕の中に素直に収まってくれるようにはなって。
視線が合ったらその色づいた唇に唇を重ねられるような仲にはなって。
そうしてお互いを知った頃。

俺は腕の中の柚希に笑って言った。


「ねぇ?復讐したくない?」


軽口を言うかのようにその単語を口にした。
これはずっと前から思っていたこと。
柚希を傷付けた奴等に対して、復讐をしてやりたいとずっと思っていたんだ。


「復讐、ですか?」
「そう。復讐」


柚希はきょとりと首を傾げて「何故?」と問うような口調で言う。
そんな柚希に刷り込むように同じ言葉を繰り返して、にんまりと口端を持ち上げる。


「俺はね、柚希を傷付けた奴等を柚希と同じくらい傷付けて、後悔させてやりたいんだ」


俺のモノになった柚希。
だけど柚希を信じなかった恋人クンは未だに柚希を蔑み続ける。

柚希と恋人クンは明確な別れ話をしていない。
だから、まだ恋人。
これにもムカついているけれど、理由は一応ある。

柚希が恋人クンとの接触を嫌がったのと、恋人クンが柚希と別れることを何故か先伸ばしにしているから。
いや、何故かなんて分かりきっているか。

恋人クンは柚希をまだ好きなんだ。
それも俺と同じ類いの、性質の悪いネジ曲がった愛情を柚希に向けている。
別れていないことを良いことに未だに柚希は自分の恋人だと言い触れて。
切っ掛けになった恋人クンを好きな女は、周りから言わせれば可愛らしい――俺にしたら醜いだけの――顔を歪めて良く柚希を睨んでくる。
いつ柚希を殺したって可笑しくないくらいの視線に毎回殺してやりたくなるのを抑えるのが大変だ。
全く。高校生の恋愛にしてはあまりにも殺伐としていると思うよ。
その一端を担っている立場だとは理解しているつもりだけど。


まあ話を戻すと。
簡単に言えば、そんなアイツ等に俺自身が我慢の限界を迎えたんだ。

表立った虐めだけでも沈静化させたけれど、それでもゼロにはならない。
むしろ柚希の一応恋人クンは「今度はソイツを誑す気かよ。何したか知らねえが、尻軽にも程があるんじゃねぇのか?」なんて下らなすぎる言葉で彼女を傷付けて。
その癖その目は俺に対して有り余るほどの憎悪を向けている。

自分のモノだと言う独占欲を向けながら、けれど口では柚希を蔑む。
今時、小学生だってもっと分かりやすい愛情表現をすると思うんだけどなぁ。と失笑が浮かぶよ。

恋人クンは柚希が誰からも嫌われれば自分だけに頼るようになると。
自分だけを見てくれるようになると。
そう思っていたのだろうか?
だとした一体柚希の何を見て恋人だなどと言っているのだろう。

柚希は誰かに頼ることも甘えることも、俺が尽くし続けて言葉巧みに説き伏せて。
ようやく出来るようになったというのに。
本当にふざけているよ。
甘え方も知らない彼女がこんな俺にすら手を差し伸べてくれたような彼女が、


「観月さんがそう言うなら……そうですね。復讐、してしまいましょうか」


表情は相変わらず薄い。
けれど芯の通った強い瞳は、濁ってしまった。
そうして誰よりも優しかった彼女は今、誰かを傷付ける言葉に賛同する。
そうなってしまうくらい追い詰めたのはアイツ等で。
それを少し押して、見事に壊してしまったのは俺。
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