流されてしまったので

「千帆ちゃん?ナニ考え込んでるわけ?折角、5日振りに会えたのに余裕だねぇ?俺が居ぬ間に男出来たとか言わないよねぇ、千帆ちゃんは」

「そんなの居ないから!てか重い!体重掛けないでよっ」

「俺はさー、千帆ちゃんに会いたくて会いたくて発狂しそうだったって言うのにさぁー、何かムカつくよねぇ?」


ムカつくよね?って、笑顔で言わないで下さいね怖いから。あと目が全く笑ってないよどうしたの!?

引き吊りそうになる頬を隠すことすら出来ない今の状況は。
寝室のベッドの上に押し倒され、両手を頭上で一纏めにされた挙げ句に目が一切笑っていない美知の笑顔が視界一杯に広がっていますね。


つまりは、絶 体 絶 命 ということです。


何に怒っているのか分からないけれど、美知は夕食の後、心結と一緒にお風呂から出てきてから何故か機嫌が最底辺だった。
いつもは誰ですかアナタ?というくらいデレッデレのゆるっゆるな顔で自分が濡れているのも構わずに心結の髪を拭いてるくせに。
今日は明らかに不機嫌オーラを出していて、おろおろとする心結に。
見兼ねた私が心結の髪を拭いてあげた。
心結に美知の機嫌がいつ悪くなったのか聞いてみても首を傾げるだけで理由は知らないようだ。


(しょうがないから後で聞いてみよう)


そう思って。
この状況なわけだけど。


幸い心結はお義父さんとお義母さんの部屋に引き取られて(これまた珍しく美知が預けて)いったので。
まぁ、この後の展開を見られる心配はないのだけれど。
全く理由も言わずに押し倒されたので意味が分からずに私は美知を見上げることしか出来ない。


「ねぇ?なんで他の男に笑うわけ?」

「は?他?」

「サカモト先生って人にかわいー笑顔で話し掛けてたってぇ」


ああ。何となく話が読めた。
つまりはさ。
つまるところはさ。


「ヤキモチ妬かれても、坂本先生は心結の担任の先生なんだけど」

「男が居る幼稚園は止めようねってあれほど言ったよねぇー?」


優しくない。いつもとは違う、美知が本気で怒っている時の低い声。
それが私に向けられて、あまり慣れていないせいかビクリと肩が跳ねた。
それを宥めるように美知が私の頬を撫でる。


「……ごめんねぇ?でもかなりムカついたんだけどー」

「いや、あ、の私も言ってなかったから」


こんなにキレられるとは全く思わなかったし。
心結が気に入ったならそこでいいかー、くらいで幼稚園を決めてしまった。
美知は入園式には出られなかったので、今まで知らずに居たから怒るのは分からないでもない。

何故だか美知は私が男の人と関わるのをとても嫌がる。
徹底的に排除したい。とか呟いていたのをたまたま聞いた時はかなり凶悪なオーラを放っていて、全力で聞かなかった事にしたことがある。


「でも美知が気にするほど私モテないから、心配するだけ無駄だと思うけど」

「……ナニ?千帆ちゃんは俺以外にモテたいわけぇ?」

「え?ちがっ」

「ていうかさ。千帆ちゃんは全く分かってないねぇ?そこがかわいーんだけど。……やっぱイラつくなぁ」


後半は声が小さすぎて全く聞こえなかった。
けれど私は元に戻った口調と眼差しに一安心、


「だから千帆ちゃんにはオシオキ。俺が仕事に行ってる間にたぶらかさないように、もう1人孕もうか?」


帰って来た時のも含めて頑張ってね?


にこりと笑う美知に青ざめる私。
疑問系なのに全くそんな気がしないのは何故だろうなぁ?
「勿論、拒否なんてしないよねぇ?させないけど」なんて副音声が聞こえるんだけど、気のせいだよね?


「泣いてもやめる気無いからね?」


ゴリ押しのような笑顔を向けた美知が悪魔に見えたのは私だけでしょうか?
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