流されてしまったので

むかつくらいサラサラな黒髪に色っぽいタレ目の下には泣きボクロ。
外見だけは素晴らしく完璧な色男。なのに内面は浮気性でキレたら止まらない極悪性悪元不良。
どれくらい性悪だったかと言えば。
現役を退いて3年ほど経った今でも街を歩くとカラフルな頭や目付きの悪いヤンチャ君達が一斉に目を逸らして全力で気配を消すか。
美知はもちろんのこと私や心結にまで頭を下げてくるくらいには恐れられていた。
ただ、女子供に手を上げないっていうポリシーを持っていたせいか、未だに派手な女の子や逆に地味目な女の子が呆れるくらいアピールしてくるけれど。


そんな選り取りみどり、選び放題な美知が何で私と結婚したか。
さっきも言ったけれど心結が出来たから。
じゃなかったらまず別れてますって。
むしろ付き合った事が既に奇跡に近かったんだから。
いや、告白したのは私からだったけれど。
若さ故の過ちだったのだと今なら思う。
だってさ?


「浮気くらい男なら普通にするよぉ?だから別れるなんて血迷わないでね?監禁したくなっちゃうから」


なんてとても良い笑顔で「別れたい」の「わ」の字を言った瞬間に言った人だから。
自分のことを棚に上げて何を言っているのかなこの人はとか思いましたよ。ええ、言うわけないです。何が起きるか全く分かりませんからね。
ちなみに監禁とか、その時目が全く笑っていなかったとか。そんなことを気にしたら負けます。


それに美知の独占欲はまだ飽きてないオモチャが勝手に離れていくのが気に食わないからこその発言であって。
つまりは好かれているとか思ってはいません。
というよりもどう思えと言う話です。


あ、今はちゃんと好かれてる自覚はあるけれど。
当時はまあ、美知の悪癖である浮気が凄かったですからね。
たまに「そういえば付き合ってるんだっけ?」と疑問系で言っちゃうくらいには。
今は全く浮気はしないし。……逆にそれが怖いけれど。


まあ、でも。何やかんやで惚れたのも告白したのも私が先で。
何が気に入られたのか分からないけれど付き合い出して。
浮気する美知と喧嘩したり。喧嘩してたまにだけれど怪我をする美知を心配したり。


そんな日が続いたある日。
いきなり発覚した妊娠。
相手は確実に美知。というか美知意外関係を持った相手はいない。
万が一そんなことをしてしまったら相手は確実に日の光を拝めなくなるだろうから。それが簡単に出来てしまう人だったから。
だからこそ、


「堕ろせとか言われそうだよねぇ」


高校を先日めでたく卒業して、後は大学が始まるのを待つばかりの私と。
まだ高校生の美知。
そんな二人だから堕ろせなんて言われるのが定石だろうし、美知の家はかなりの資産家だと聞いたからそういったスキャンダルは嫌うだろう。



けれど子供に罪は無いから。
折角出来た命だから。
私はシングルマザーになる決意をした。
何と言われようと、どんな理由があろうと。
親の都合で折角芽生えた命を見捨てるなんて、私の頭の中には微塵も無かったから。


そして私は、久し振りに美知に連絡をした。
もちろん別れを言うために。



――で。
何故かそのまま有無を言わせない美知と2人、何故か揃えられていた書類を持って籍を入れに行きました。
保証人の欄には私の両親の名前もあって驚きのあまり気を失うかとも思いつつ。
戸惑っているうちに美知の家で暮らすことが決まっていた。


美知のご両親は美知とは真逆の真面目ないい方達でこれはこれでかなり驚いた。
しかも家のスキャンダルになるだろう子供の事も私の親以上に喜んでくれた。


「こんな良い子がうちの馬鹿息子に嫁いでくれるなんて…っ!息子をどうか見捨てないであげて下さいね!」


そんな言葉付きでガシリと掴まれた両手。


あ。退路絶たれた。


そう感じながらも、流され気味に今に至るのだ。
2/4ページ