流されてしまったので

私が惚れたのはとんでもないクズだった。
浮気をするのは当たり前。
しかもちょっと名の知れた不良さんだったからか、毎日喧嘩が絶えないし、そのせいか常に血の臭いが身体からしていた(もう体臭が血の臭いだよねとか思った時がありました)


いやもうなんて言うのかな?
とりあえず。



惚れたのは勘違いだったんだよ。うん。



―――勘違い……の、筈なのにねぇ?



「ただいま、千帆ちゃん」



玄関を開けた瞬間に抱き締められて顔中にキスを振らされる。
もう慣れたそれを受け止めながら「……おかえり」と小さく返した。
若干引き気味なのは気にしないで欲しい。


「なぁに?千帆ちゃん。イヤそーな顔。折角出張から帰ってきたのに酷いなー。――千帆ちゃんにはオシオキが必要かな?」


気にしないで欲しいって言ったのに、美知(みち)は嬉しそうな顔で「オシオキ」と口にする。


「…っ、やめ」

「ふは。可愛いー」


(ああああ耳元で囁くなぁぁぁぁ!しかも無駄にえっちい声で!)


まるで情事の時のような艶を含んだ低い声に背筋がゾクリとする。
ちょっともう本当に勘弁して下さい。
まだ玄関ですよ?実質「おかえり」としか言ってませんよ?

なのに腰に回された美知の手つきが明らかに危なくなってきている。危ないのは主に私がだけどね!


「なぁに考えてんの?千帆ちゃん」

「……っ、いや、あの」


美知の顔が近付いてきてああもう駄目かな。と半ば諦め掛けたその時だった。
天使が私に声を掛けてきたのは。


「ままぁ?……うりゅ?」

「心結!」


中々玄関から戻って来ない私を心配してくれたのか、娘の心結(こころ)がよたよたと掴まり歩きをしながら顔を出す。
すると今まで雄の顔で私を喰らおうとしていた旦那が心結に向かって突進していった。
今は抱き上げて頬擦りしている。
心結も「キャー!」と叫びながらも満面の笑みで自分の頬をくっ付けていた。


「ぱぁぱだぁー!」

「ただいまぁ、心結。5日間も会えなくて寂しかったよぉ」

「ココちゃんもぉ」


――あなた誰ですか?ってなりますよね?私だけじゃないですよね?


さっきまで色気ムンムンだった美知は見た目は素晴らしく美形な王子顔なのに、中身は娘溺愛の親バカさんだ。


そして非常に残念なことながら、私の旦那でもあったりする。


本当にどうしてそうなったんでしょうね?
いや、この外見だけは素晴らしく中身は最悪な男に孕まされたからなんですけどね。あはは。
あ、心結を産んだことには一切後悔してませんから。ここ大事です。
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