ご主人と吸血鬼

「ご主人~、血をください」

「お前、最近よく言ってくるよな。前までは週に三回くらいだったのに」

「どうしてだか無性にお腹が空くんですよぉ」

「はぁ、お前は俺を色々な意味で殺したいのか?」

「そんなことしませんよ!でもちょっと!ほんの10mlで良いのでくださいぃ~!お腹空きましたぁ!」

「……お前がそこまで言うのは珍しいな」

いつも俺の身体を一応気遣っているらしい吸血鬼は血を吸った後、数日は飲まない。
血は昨日あげた。にも関わらず今日も欲しているだなんて珍しい。
いや、戯れに言うことはあっても結局こいつは我慢する。
そこまで我慢しなくても良いのに、と思いながらも……血を吸われると何故か性欲も高まるため、結果吸血鬼の為には良くない気もする。
俺は別段自分で処理をすれば良いだけだから構わないし、そうならずに致した後はいつも満足そうながらグッタリとしているので俺も、俺から血をやるとは簡単には言えない。

いや、今はそんな話はどうでも良くて。

「っぐす。お腹空きました……」

「本当に珍しいな。お前、なんやかんや燃費は良いほうだろ」

「そうなんですよねぇ……」

なんででしょう……。
そう言って頬に手を宛てて首を傾げる吸血鬼に俺も首を傾げる。
本当に珍しい。こいつがこんな風に悩むなんて。
普段は何の悩みもないような顔でほけほけとしているのに。

「ご主人、失礼なこと思ってません?」

「そんなことはない」

「あ、今嘘つきましたねー」

胡乱げな瞳で見やってくる吸血鬼に俺は明後日の方向を見て躱す。
はあ、と溜め息のようなものが聞こえてきたが、無視だ無視。

「……そんなに飢餓感凄いのか」

「え?……あー、はい。このままだとご主人を押し倒して跨りそうなくらいには」

「……吸ってもいいぞ」

「ホントですか!!」

パァっと顔を輝かせた吸血鬼に俺は頷く。
押し倒されて吸われるなんて情けない真似は一回限りで切りで十分だ。
わぁいと喜んでいる吸血鬼はそんな俺の心など知らず、先程までの沈鬱な顔とは打って変わって満面の笑みだ。

「ありがとうございます!ご主人大好きです!」

「はいはい」

おざなりに返してシャツの襟元をくつろげて首元を晒せば、吸血鬼は飛びつくように俺の膝の上に乗って来た。
そうして我慢できないとばかりに牙を突き立てると、ちゅうちゅうと音を立てながら俺の血液を啜る。
身体から血液が吸い上げられていく感覚に加えて、湧き上がってくる欲には未だに慣れない。

「……んぅ、ふぁ。……ごちそうさまでした」

「……どーいたしまして」

ぐったりと襲ってくる倦怠感と貧血による眩暈にソファーに身体を沈めながら眉間を指で揉む。
10mlなんて可愛い飲み方じゃなかったぞおい。と言いたいのは我慢した。
それよりも、だ。

「お前、俺が復活したら覚えてろよ」

二日連続で血を吸われて、欲が溜まりに溜まって爆発しそうだ。
目を掌で覆いながらそう言ったら、気配だけだがびくりと震えたのを感じた。
しかし知らない。
こうなることは分かっていた筈なんだから。

「……お、お手柔らかに~」

「知るか。ばーか」

今度は俺が思うままに吸い尽くさせて貰う番だと、口端を吊り上げた。
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