誇り抱く桜の如く
「紫鈴」
「……」
無言で真っ直ぐ窓から空を見つめる妻に私は近付く。
無視をされているわけではない。
ただ、紫鈴(しりん)は壊れてしまった。
双子を生んだ、それだけの理由で。
いや違う。正確には壊されてしまったのだ。
『双子』はこの天界では禁忌の存在。
本来なら生まれくることはなかった筈なのだ。
けれど紫鈴は双子を生んだ。
その理由を、私は知っている。
「紫鈴。お前は私を、恨んでいるか?」
お前を守れなかった私を。
自嘲気味に発した言葉に、返ってくるのは微かな吐息だけ。
紫鈴は心を壊しながらも、生きていてくれている。
いいや、一度は死のうとした身であることを、子供達は知らないだろう。
『子を生むくらいなら、わたくしは禁忌を犯した方がマシです!』
そう言って涙を流しながら半狂乱で小刀を首筋に宛てがった紫鈴。
私はその言葉に傷つきながらも決して許さず、小刀を取り上げ、部屋に呪術の類を使って軟禁した。
最初の頃は暴れて、取り乱して、目に涙を浮かべて「殺してください」と懇願したり、私を憎々しげに睨み付ける紫鈴ではあったが、次第に何の反応も見せなくなっていった。
妊娠したが故に心を取り乱していただけなのだと思っていた。
落ち着きを取り戻したのかと思っていた。
けれども、違った。
彼女の世話係を買って出た私の側室であり、紫鈴の親友だと宣った女が。
紫鈴がどうして双子を孕み、生むことになったのかを囁き続けていたのだ。
すべては私の寵愛欲しさだと、貴方様を愛しているのだと、のちに言っていたけれども。
側室を幽閉して半ば拷問のように吐かせた真実。
側室は笑いながら語っていた。
紫鈴が自殺をしようとした理由。
紫鈴が『忌み子』と呼ばれる『双子』を孕んだその理由。
紫鈴は。私の愛おしい妻は。
――天帝によって、穢されていたのだと。
殺意、というものを芽生えさせたのは生まれて初めてだったかも知れない。
何もかもを投げ捨てて彼女を傷付けた天帝をこの手で殺めてしまいたくなった。
それでも、と、拳から血が出るほどに耐えたのは。
自身の立場が無くなることを恐れたから。
保身の為だと言われたらそれまでだが、紫鈴を軟禁し、守り続ける為にはこの『立場』が必要だった。
闘神の一族。
その長の子という立場が。
私は戦はからっきしで、勉学ばかりが取り柄な、つまらない男だった。
父上からも期待されていない。
それが悔しい反面、当然かと諦めを抱くことで己を守っていた。
けれどある日、私のつまらない人生は変わった。
父上の言いなり通りに許嫁となった紫鈴と出逢い、私はいつしか彼女を守りたいと強く願い始めたのだ。
「紅夜、お前、好きな女でも出来たのか?」
「は?兄上、私には許嫁が居る身ですが」
「その許嫁殿と出逢ってから、お前、結構変わってきてると思うけどなー」
「私には分かり兼ねる話ですね」
嘘だ、認めてしまえと思う自分と。
認めてしまいたくない自分が混在する。
だからまだこの感情に、名前は付かない。
「ま、良いけどな!でも、気持ちを伝えねぇと嫌われちまうぜ?」
ニヤニヤと笑う兄上の言葉に、私は内心焦った。
何せ私は彼女に何一つ伝えては居なかったのだから。
私のつまらない意地や自尊心が為に傷付けてばかりではないかと。
そのことを裏付けるように「わたくしは紅夜様のことなど嫌いです」と哀しげに言われるのだから。
「……善処は、します」
このひねくれた心が素直になってくれるのであれば。
幾らでも愛の言葉とやらを囁けたのかも知れない。
今、思えば。
もっと沢山、伝えていれば良かった。
もっと素直になっていれば良かった。
後悔ばかりが募っては、振り払うことも出来ずに山となって心を圧迫していく。
紫鈴は私を、愛してくれていたのだろうか?
私を嫌いだと言いながら、花が綺麗だから共に見に行こうと誘ってくれたりした。
私は仕事が忙しくてそんなところではない、そう言えばまた哀しげに眉を下げ、ぼそりと「貴方様なんて嫌いです」と言うのだ。
その度に素直になれない自分が情けなくて。
私との間に子が出来たとツンと澄ましながら、それでも何処か嬉しそうな雰囲気で告げに来たのは、婚姻してから少し経った頃。
私は初めて、その日何も言わずに抱き締めた。
紫鈴は腕の中で「大嫌いな貴方様の御子でも生んで差し上げますわ」と素直じゃない言葉を吐いていた。
幸せだったのは、たぶん一瞬。
天帝は何故かその日に紫鈴を呼び付けた。
そこで無理やり穢され、天帝というだけあり強い神力により、先に孕んでいた私との間に出来た子と同じ時、同じ胎に、同時に子を宿してしまった。
どれだけ屈辱的であっただろう?
どれだけ泣いただろう?
私には推し量れないその想いは、誰に告げることも出来ずに昇華されることなく、紫鈴の心の内に燻り続け。
塞ぎ込む紫鈴に構う私の態度に嫉妬した側室が、紫鈴を追い詰めるように『穢れた女』と蔑み続けた。
自身が遅れながらも男児を生んだことによって生まれた自尊心から『男児を孕めなかった阿婆擦れ』なんて醜く罵ったりもした。
紫鈴はボロボロだった心に追い打ちをかけられるように追い詰められ、壊されてしまった。
そうして今、紫鈴は夢と現の狭間で辛うじて生きている。
「……こう、やさま……」
「何だ、紫鈴」
時折、思い出したように私の名を呼ぶ。
私は意識して優しく声をかける。
紫鈴の次の言葉は決まって同じ言葉だと知りながら。
「わたくし、……あなたさまが、きらいです」
「……そうか。それでも、私はお前だけを愛している」
私を嫌いだと言う紫鈴を、私の傍に置き続けることは、きっと彼女にとって毒にしかならないのだろう。
けれどそれでも良い。
紫鈴が私の傍で、私を嫌い続けていてくれる限り、紫鈴は夢と現の狭間であろうとも、生きていてくれるのだから
「紫鈴」
「……」
返事はない。
また虚空を見つめ始めた紫鈴の投げ出された蒼白い細腕を撫でて、指を絡める。
「壊れたお前を、未だ愛している。……離してやれなくて、すまない……救ってやれなくて、すまない……」
菩薩の妹である彼女を菩薩の元に返せば、ここまで壊れることは無かったかも知れない。
菩薩は私と会っても罵るでもなく、憐れむでもなく、ただ見守っていてくれるけれども。
私はきっと、一生離せないのだ。
夢と現の狭間を漂いながらも私を『愛してくれている』彼女を、一生。
「紫鈴。私はつまらない男ではあるが、お前のその分かりにくい愛情表現くらいは分かるぞ」
なあ、紫鈴。良い話があるんだ。
耳を傾けてくれ。
「睡蓮が明日嫁ぐことになった。水仙も兄上の子と良い仲にあるらしい。公には出来ないが、……私とお前の子達だ。幸せになってくれると、信じている」
だからお前も願ってくれ。
「二人が幸せであるようにと」
例えば、睡蓮が嫁いだ先が天帝嫡子の元であろうとも。
睡蓮と水仙、どちらが天帝の子であるか分かることは最後までなかったけれども。
最後。そう、最後だ。
睡蓮が天帝嫡子の元に嫁ぎ不慣れだろう生活を送って居る最中。
天帝はまた卑劣な行動を起こした。
顔を青ざめさせた睡蓮が必死に助けを求めに来たのだ。
ぐったりとした水仙を抱えながら。
聞けば、抵抗する術を持たない、いや抵抗という行動を知らない水仙を、あの男は。
紫鈴の時と同じようにその腐った性根で己の欲を発散する為に穢そうと襲ったのだそうだ。
駆け付けた兄上の子であり水仙の恋仲である男は、激情と共に天帝を殺し、捕縛、その場で殺されたのだという。
睡蓮は私に「水仙を匿ってくださいませ」とだけ必死に歎願してきた。
もちろんそのつもりではあったが、何故かと問えば「胎に御子が居るのです」と悲痛な顔をする睡蓮。
どこまでも下劣で卑怯で、卑しい男だ。
私の目の前は私には受け継がれなかったけれども闘神の長に宿る紅い瞳のように真っ赤に染まった。
水仙は何事もなかったように子を産んで、そうしてその命を。
私と睡蓮の目の前で絶った。
あんなにも幸せそうな笑みは初めて見た。
紫鈴のように壊れなかった水仙は、その代わりに愛おしい男の元へと向かったのだ。
同じく愛おしかったであろう恋仲の男との子を捨ててでも。
「水仙が選んだ道ですから」そう言って睡蓮は何かを覚悟したような顔をして。
そうして混乱が多少静まり、次期天帝として嫡子殿が就く手筈が整った頃。
計らったように天帝城に赴き、自身が産んだ子だと水仙の子を抱えながら帰城した。
睡蓮は売女と謳われ、蔑まれながらも、それでも必死に水仙の子を立派に育てたというのに。
なあ、紫鈴。
私は睡蓮をお前と同じように囲うべきだったのだろうか?
私のもう一人の子、水玄が起こした事柄により、慌ただしくも荒れる天帝城に足を踏み入れれば、救護室で手当を受けている睡蓮の姿。
出血多量による昏睡状態だと聞かされた。
その右手を握る青ざめた顔をする天帝を見つめながら。
私は夢と現の狭間に居る紫鈴に心の中で問い掛けた。
「……」
無言で真っ直ぐ窓から空を見つめる妻に私は近付く。
無視をされているわけではない。
ただ、紫鈴(しりん)は壊れてしまった。
双子を生んだ、それだけの理由で。
いや違う。正確には壊されてしまったのだ。
『双子』はこの天界では禁忌の存在。
本来なら生まれくることはなかった筈なのだ。
けれど紫鈴は双子を生んだ。
その理由を、私は知っている。
「紫鈴。お前は私を、恨んでいるか?」
お前を守れなかった私を。
自嘲気味に発した言葉に、返ってくるのは微かな吐息だけ。
紫鈴は心を壊しながらも、生きていてくれている。
いいや、一度は死のうとした身であることを、子供達は知らないだろう。
『子を生むくらいなら、わたくしは禁忌を犯した方がマシです!』
そう言って涙を流しながら半狂乱で小刀を首筋に宛てがった紫鈴。
私はその言葉に傷つきながらも決して許さず、小刀を取り上げ、部屋に呪術の類を使って軟禁した。
最初の頃は暴れて、取り乱して、目に涙を浮かべて「殺してください」と懇願したり、私を憎々しげに睨み付ける紫鈴ではあったが、次第に何の反応も見せなくなっていった。
妊娠したが故に心を取り乱していただけなのだと思っていた。
落ち着きを取り戻したのかと思っていた。
けれども、違った。
彼女の世話係を買って出た私の側室であり、紫鈴の親友だと宣った女が。
紫鈴がどうして双子を孕み、生むことになったのかを囁き続けていたのだ。
すべては私の寵愛欲しさだと、貴方様を愛しているのだと、のちに言っていたけれども。
側室を幽閉して半ば拷問のように吐かせた真実。
側室は笑いながら語っていた。
紫鈴が自殺をしようとした理由。
紫鈴が『忌み子』と呼ばれる『双子』を孕んだその理由。
紫鈴は。私の愛おしい妻は。
――天帝によって、穢されていたのだと。
殺意、というものを芽生えさせたのは生まれて初めてだったかも知れない。
何もかもを投げ捨てて彼女を傷付けた天帝をこの手で殺めてしまいたくなった。
それでも、と、拳から血が出るほどに耐えたのは。
自身の立場が無くなることを恐れたから。
保身の為だと言われたらそれまでだが、紫鈴を軟禁し、守り続ける為にはこの『立場』が必要だった。
闘神の一族。
その長の子という立場が。
私は戦はからっきしで、勉学ばかりが取り柄な、つまらない男だった。
父上からも期待されていない。
それが悔しい反面、当然かと諦めを抱くことで己を守っていた。
けれどある日、私のつまらない人生は変わった。
父上の言いなり通りに許嫁となった紫鈴と出逢い、私はいつしか彼女を守りたいと強く願い始めたのだ。
「紅夜、お前、好きな女でも出来たのか?」
「は?兄上、私には許嫁が居る身ですが」
「その許嫁殿と出逢ってから、お前、結構変わってきてると思うけどなー」
「私には分かり兼ねる話ですね」
嘘だ、認めてしまえと思う自分と。
認めてしまいたくない自分が混在する。
だからまだこの感情に、名前は付かない。
「ま、良いけどな!でも、気持ちを伝えねぇと嫌われちまうぜ?」
ニヤニヤと笑う兄上の言葉に、私は内心焦った。
何せ私は彼女に何一つ伝えては居なかったのだから。
私のつまらない意地や自尊心が為に傷付けてばかりではないかと。
そのことを裏付けるように「わたくしは紅夜様のことなど嫌いです」と哀しげに言われるのだから。
「……善処は、します」
このひねくれた心が素直になってくれるのであれば。
幾らでも愛の言葉とやらを囁けたのかも知れない。
今、思えば。
もっと沢山、伝えていれば良かった。
もっと素直になっていれば良かった。
後悔ばかりが募っては、振り払うことも出来ずに山となって心を圧迫していく。
紫鈴は私を、愛してくれていたのだろうか?
私を嫌いだと言いながら、花が綺麗だから共に見に行こうと誘ってくれたりした。
私は仕事が忙しくてそんなところではない、そう言えばまた哀しげに眉を下げ、ぼそりと「貴方様なんて嫌いです」と言うのだ。
その度に素直になれない自分が情けなくて。
私との間に子が出来たとツンと澄ましながら、それでも何処か嬉しそうな雰囲気で告げに来たのは、婚姻してから少し経った頃。
私は初めて、その日何も言わずに抱き締めた。
紫鈴は腕の中で「大嫌いな貴方様の御子でも生んで差し上げますわ」と素直じゃない言葉を吐いていた。
幸せだったのは、たぶん一瞬。
天帝は何故かその日に紫鈴を呼び付けた。
そこで無理やり穢され、天帝というだけあり強い神力により、先に孕んでいた私との間に出来た子と同じ時、同じ胎に、同時に子を宿してしまった。
どれだけ屈辱的であっただろう?
どれだけ泣いただろう?
私には推し量れないその想いは、誰に告げることも出来ずに昇華されることなく、紫鈴の心の内に燻り続け。
塞ぎ込む紫鈴に構う私の態度に嫉妬した側室が、紫鈴を追い詰めるように『穢れた女』と蔑み続けた。
自身が遅れながらも男児を生んだことによって生まれた自尊心から『男児を孕めなかった阿婆擦れ』なんて醜く罵ったりもした。
紫鈴はボロボロだった心に追い打ちをかけられるように追い詰められ、壊されてしまった。
そうして今、紫鈴は夢と現の狭間で辛うじて生きている。
「……こう、やさま……」
「何だ、紫鈴」
時折、思い出したように私の名を呼ぶ。
私は意識して優しく声をかける。
紫鈴の次の言葉は決まって同じ言葉だと知りながら。
「わたくし、……あなたさまが、きらいです」
「……そうか。それでも、私はお前だけを愛している」
私を嫌いだと言う紫鈴を、私の傍に置き続けることは、きっと彼女にとって毒にしかならないのだろう。
けれどそれでも良い。
紫鈴が私の傍で、私を嫌い続けていてくれる限り、紫鈴は夢と現の狭間であろうとも、生きていてくれるのだから
「紫鈴」
「……」
返事はない。
また虚空を見つめ始めた紫鈴の投げ出された蒼白い細腕を撫でて、指を絡める。
「壊れたお前を、未だ愛している。……離してやれなくて、すまない……救ってやれなくて、すまない……」
菩薩の妹である彼女を菩薩の元に返せば、ここまで壊れることは無かったかも知れない。
菩薩は私と会っても罵るでもなく、憐れむでもなく、ただ見守っていてくれるけれども。
私はきっと、一生離せないのだ。
夢と現の狭間を漂いながらも私を『愛してくれている』彼女を、一生。
「紫鈴。私はつまらない男ではあるが、お前のその分かりにくい愛情表現くらいは分かるぞ」
なあ、紫鈴。良い話があるんだ。
耳を傾けてくれ。
「睡蓮が明日嫁ぐことになった。水仙も兄上の子と良い仲にあるらしい。公には出来ないが、……私とお前の子達だ。幸せになってくれると、信じている」
だからお前も願ってくれ。
「二人が幸せであるようにと」
例えば、睡蓮が嫁いだ先が天帝嫡子の元であろうとも。
睡蓮と水仙、どちらが天帝の子であるか分かることは最後までなかったけれども。
最後。そう、最後だ。
睡蓮が天帝嫡子の元に嫁ぎ不慣れだろう生活を送って居る最中。
天帝はまた卑劣な行動を起こした。
顔を青ざめさせた睡蓮が必死に助けを求めに来たのだ。
ぐったりとした水仙を抱えながら。
聞けば、抵抗する術を持たない、いや抵抗という行動を知らない水仙を、あの男は。
紫鈴の時と同じようにその腐った性根で己の欲を発散する為に穢そうと襲ったのだそうだ。
駆け付けた兄上の子であり水仙の恋仲である男は、激情と共に天帝を殺し、捕縛、その場で殺されたのだという。
睡蓮は私に「水仙を匿ってくださいませ」とだけ必死に歎願してきた。
もちろんそのつもりではあったが、何故かと問えば「胎に御子が居るのです」と悲痛な顔をする睡蓮。
どこまでも下劣で卑怯で、卑しい男だ。
私の目の前は私には受け継がれなかったけれども闘神の長に宿る紅い瞳のように真っ赤に染まった。
水仙は何事もなかったように子を産んで、そうしてその命を。
私と睡蓮の目の前で絶った。
あんなにも幸せそうな笑みは初めて見た。
紫鈴のように壊れなかった水仙は、その代わりに愛おしい男の元へと向かったのだ。
同じく愛おしかったであろう恋仲の男との子を捨ててでも。
「水仙が選んだ道ですから」そう言って睡蓮は何かを覚悟したような顔をして。
そうして混乱が多少静まり、次期天帝として嫡子殿が就く手筈が整った頃。
計らったように天帝城に赴き、自身が産んだ子だと水仙の子を抱えながら帰城した。
睡蓮は売女と謳われ、蔑まれながらも、それでも必死に水仙の子を立派に育てたというのに。
なあ、紫鈴。
私は睡蓮をお前と同じように囲うべきだったのだろうか?
私のもう一人の子、水玄が起こした事柄により、慌ただしくも荒れる天帝城に足を踏み入れれば、救護室で手当を受けている睡蓮の姿。
出血多量による昏睡状態だと聞かされた。
その右手を握る青ざめた顔をする天帝を見つめながら。
私は夢と現の狭間に居る紫鈴に心の中で問い掛けた。