誇り抱く桜の如く

天界の花園に睡蓮が佇んでいる。
水仙の花を摘み取りながら、その香を匂うように鼻先につけていた。

「睡蓮、何をしているんだ?」

「劉桜様」

ふわりと花咲くように微笑まれ、俺はドキリと心の臓が高鳴る。
子供ではないのだからこの程度で動揺していてどうする!
そう自身を叱咤して、俺は何事も無いような顔をしながら睡蓮に歩みを寄せる。

「水仙のことを思っておりました」

「……やはり、翠凛は」

「はい。ご想像の通りです」

「……」

俺の子だと、そう宣言した翠凛は今や次代の天帝としての教育を受けている。
先日行われた翠凛の誕生祭も、賑やかなまま終わった。
だからこそ、この話は誰かに聞かれてはならない。

睡蓮の双子の妹君である水仙。
その女に会ったことはない。
会う前に、命を絶った。

『私が生んだ子です』

そう言って生まれて間もない翠凛を連れて天帝城に帰ってきたのは、その妹君がこの天界では禁忌とされている自殺を行ったすぐあとだったように思う。
我が父、前天帝が前闘神によって殺された理由もハッキリとしないままに、天帝不在の混乱を新たなる『天帝』を据えることによって納めようとした。

そうして俺が据えられ、二人の側室を与えられた。
そのすぐ後にこの世で一番愛おしい睡蓮を正室の座から追いやる羽目にはなったけれども。

今俺はようやく、幸せを取り戻したのだ。
だから、

「誰の子だろうと、何を隠していようと構わない。お前が居てさえくれれば、もう俺はそれだけで良い」

「……劉桜様。お気付きになられていたのですね。わたくしが隠し事をまだ残していることを」

「分からないとでも思ったか?どれ程の時、お前を見続けて居ると思っているんだ」

そう言ったなら睡蓮はくしゃりと顔を歪め、俺の胸に飛び込んできた。
難なく受け止めた俺は、ただその長い金糸の髪を撫でてやることで睡蓮の涙が止まるのを待った。


この時が続けば良い。
ずっと、ずっと、続けば良い。


俺は忘れていた。
俺にはもうひとり『妻』が居たことを。
その妻は――­­翠凛暗殺を計画した香鈴なんかよりも余程タチが悪かったことを。
あまりに幸せに浸りすぎていて、忘れていたんだ。
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