誇り抱く桜の如く

睡蓮の弟による翠凛暗殺計画、そうして睡蓮への暴行。
それらは俺を想いすぎた香鈴の仕掛けた事だと、水玄は死んだ目で話した。

「良くも簡単に話すものだな」

「もうどうでも良いんですよ……姉さんがオレに振り向いてくれない以上、あの忌み子を殺せなかった以上、オレはもうこの牢獄で死んだって構わない」

「自殺は禁忌とされているが?」

「ならばオレを殺せばいい」

ハッと鼻で嗤いながら水玄はそう言った。
天帝として、それ以前に睡蓮の夫として、この男には下さなければならない罰がある。

「懲役五百年の刑に処す」

そう言えば水玄は目を丸くして、そうして呟いた。

「貴方は甘すぎる」

その甘さが、何れ姉さんを殺すだろう。

水玄のその言葉を浴びながら、天帝としての顔を水玄から背けた。


**


「何をしているんだ、翠凛?」

「……っ!……あ、天帝様……」

「私は確かに天帝ではあるが、その前に何であったか忘れてしまったか?」

「い、いえ!そんなことありません!」

恥ずかしそうに顔を赤らめる翠凛は、小さく、虫の羽音のような程に小さな声で「父様……」と呼んだ。
嗚呼、もっと早くに認めていれば。
こんなにも幸せな感情をもっと沢山抱けていたのだろうか?
天帝の顔を脱ぎ捨てて、ただの翠凛の父として俺はこの幼い少年を抱き締めた。

「ふふ、不思議ですね。何故だか母様と同じ匂いがします」

「……そうか。それは、嬉しいことだな」

昨晩、久方振りに睡蓮をこの手に抱いた。
何かをした訳では無い。
まだ傷も癒えぬ女に無体を働く男にはなりたくなかったしな。
それでも彼女の存在をただ感じたくて、この腕に抱いて眠りについた。
睡蓮は擽ったそうにしていたけれども、その唇は柔らかく微笑んでいて。

幸せだと思った。
この一瞬が、本当に幸せだと。

「そう言えば父様、ありがとうございます」

「何がだ?」

キョトンと首を傾げれば、翠凛は嬉しそうに跳ねるような声音で言う。

「母様が僕の誕生日だからと、お祝いをしてくださるそうなんです」

僕がお祝いされるのは許されていなかったけれども、父様が許可してくださったんですよね?

「嬉しいです」

柔らかく微笑む顔付きは睡蓮にとても良く似ていて、俺は小煩い爺共を黙らせた甲斐があったと口端を上げた。
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