誇り抱く桜の如く
わたくしは『天帝で在ろうとする』劉桜様が嫌いでした。
売女と他の方に言われるのは平気でも、劉桜様が『ただの男』から『天帝』の顔をなさるのが、嫌いでした。
あの世とやらの狭間の世界から帰ってきたわたくしは自室である『正室の部屋』に連れ帰られると、劉桜様にそう伝えました。
知っていた、とそう柔らかな笑みを浮かべながら言われて、嗚呼、この方は分かっていて今までの態度を取っていたのかと。
そう怒りたくなる気持ちをグッと抑え込もうとしたら、劉桜様に頬を撫でられました。
「我慢は、もうするな」
「……劉桜さ、……っん」
掠めるように口付けをされて、久し振りに劉桜様に触れられて、頬に熱を帯びた。
こんなことでは騙されないと言いたいのに、わたくしはそれ以上は言えなくて。
ただ一言。
伝えなければ行けない言葉があると、わたくしは思ったから。
「劉桜様」
「なんだ?」
柔らかな笑み、柔らかな声、泣き出したくなるほどの優しさに溢れたわたくしに向けられるすべてがいとおしい。
「あの日見た桜を、貴方様は覚えていらっしゃいますか?」
「嗚呼、お前に求婚を躱されたあの日のことだろう?」
「はい」
肩を竦められわたくしはくすくすと笑う。
そうして目を瞑れば思い出す。
あの日、劉桜様が天帝になられるずっと前。
強請って強請って、劉桜様を呆れさせながら降り立った地上。
そこにあった桜の美しさを。
そこでされた求婚を、わたくしは躱したのだ。
「劉桜様、わたくしはあの日と同じ気持ちで貴方様を見ております。お傍に居たいと思います」
劉桜様はまだわたくしを傍に置いておきたいと思いますか?
「俺は、」
一度劉桜様は言葉を途切らせて、そうして滅多に笑わないからか何処かぎこちない笑顔で言い放ちました。
「睡蓮。俺はお前をこれから先、死ぬまで愛し続けることを誓う。必ずだ」
お前も俺に誓えるか。
「もう二度と、俺に相談なく何事も決めないと」
「……それはどうでしょう」
「おい」
「ふふ。ごめんなさい。でも、そうですね」
そうですね、と噛み締めるようにわたくしは呟くと劉桜様を見つめながら微笑んだ。
「わたくしはずっと劉桜様を愛しています。ですが隠し立てしたいこともあるかとは思います。女ですので」
それでも、そんなわたくしでも。
「貴方様はわたくしを愛していると、そう仰ってくださいますか」
「当たり前だ」
即座に返されたその言葉。
嗚呼、その言葉でもう充分です。
一生分の幸せを頂きました。
「愛しています、劉桜様」
近付く劉桜様のお顔。
その蜂蜜のような金の瞳の中にわたくしの紫水晶の瞳が映って、それがなんだかとても綺麗で。
滲む視界を閉じて交わした口付けはしょっぱいのに、何処か甘かった。
売女と他の方に言われるのは平気でも、劉桜様が『ただの男』から『天帝』の顔をなさるのが、嫌いでした。
あの世とやらの狭間の世界から帰ってきたわたくしは自室である『正室の部屋』に連れ帰られると、劉桜様にそう伝えました。
知っていた、とそう柔らかな笑みを浮かべながら言われて、嗚呼、この方は分かっていて今までの態度を取っていたのかと。
そう怒りたくなる気持ちをグッと抑え込もうとしたら、劉桜様に頬を撫でられました。
「我慢は、もうするな」
「……劉桜さ、……っん」
掠めるように口付けをされて、久し振りに劉桜様に触れられて、頬に熱を帯びた。
こんなことでは騙されないと言いたいのに、わたくしはそれ以上は言えなくて。
ただ一言。
伝えなければ行けない言葉があると、わたくしは思ったから。
「劉桜様」
「なんだ?」
柔らかな笑み、柔らかな声、泣き出したくなるほどの優しさに溢れたわたくしに向けられるすべてがいとおしい。
「あの日見た桜を、貴方様は覚えていらっしゃいますか?」
「嗚呼、お前に求婚を躱されたあの日のことだろう?」
「はい」
肩を竦められわたくしはくすくすと笑う。
そうして目を瞑れば思い出す。
あの日、劉桜様が天帝になられるずっと前。
強請って強請って、劉桜様を呆れさせながら降り立った地上。
そこにあった桜の美しさを。
そこでされた求婚を、わたくしは躱したのだ。
「劉桜様、わたくしはあの日と同じ気持ちで貴方様を見ております。お傍に居たいと思います」
劉桜様はまだわたくしを傍に置いておきたいと思いますか?
「俺は、」
一度劉桜様は言葉を途切らせて、そうして滅多に笑わないからか何処かぎこちない笑顔で言い放ちました。
「睡蓮。俺はお前をこれから先、死ぬまで愛し続けることを誓う。必ずだ」
お前も俺に誓えるか。
「もう二度と、俺に相談なく何事も決めないと」
「……それはどうでしょう」
「おい」
「ふふ。ごめんなさい。でも、そうですね」
そうですね、と噛み締めるようにわたくしは呟くと劉桜様を見つめながら微笑んだ。
「わたくしはずっと劉桜様を愛しています。ですが隠し立てしたいこともあるかとは思います。女ですので」
それでも、そんなわたくしでも。
「貴方様はわたくしを愛していると、そう仰ってくださいますか」
「当たり前だ」
即座に返されたその言葉。
嗚呼、その言葉でもう充分です。
一生分の幸せを頂きました。
「愛しています、劉桜様」
近付く劉桜様のお顔。
その蜂蜜のような金の瞳の中にわたくしの紫水晶の瞳が映って、それがなんだかとても綺麗で。
滲む視界を閉じて交わした口付けはしょっぱいのに、何処か甘かった。