幕間

嘘つきが本当の事を言ったらどうなると思う?
そんな言葉を気まぐれに吐いてみた。

「お前はどうせ全部を嘘に塗り替えるだろうな」
「あら? 信用がないわね」
「セシル・アーベレッチェという女に『信用』とか『信頼』とか言う言葉は似合わない」
「なら、何に例えてくれるのかしら?」
「毒だな。お前に関わったせいで俺は親友を殺したんだから」
「んふふ、素敵な例えね」

即答された言葉にクスクスと笑えば、灰色の髪の毛が目の前にあった。
擽ったくて身をよじれば「動くな」と低い声で言われた。
真っ赤に熟れた林檎のような瞳が、アタシの青く濁った瞳を移す。誰かは「空のよう」だと、誰かは「海のよう」だと褒め讃えてくれる、そんな青が映る。

「それで? お前は何を突然言い出したんだ」

羽毛のようなキスがつむじに落とされた。
アタシは「そうねぇ?」と悩むフリをする。降り止まないキスの雨は唇に到達する前に止まった。

「あら? 気にしなくてもいいのに」
「お前な……」

はぁ、と大きな溜め息を吐き出すアドルににんまりと唇を歪めた。

「お楽しみ中、悪いな。急用だ。というか執務室でお楽しむな」
「スリルがあって楽しいわよ?」

リヒャルドもやってみたら? なんて軽口を叩く。オレは遠慮するね、と返された。
アドルはゆっくりと離れていく。その途中、耳元で囁かれた。

「今夜は寝かせると思うなよ」

勝手に火がついたのに、本当に勝手ねぇ、なんて思いながら。
とはいえ燻る熱は治まらないだろうから結局どう転んでも寝られないのだろうけれども。

「んふふ、お手柔らかに」

そうにんまりと口角を上げて囁けば、リヒャルドだけが呆れたような顔をしていた。
アドルはもう関係ないとばかりに書類を読んでいる。
まったく、みんな好き勝手なんだから。
でも、そういうところをアタシは愛しているのだけれども。
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