【side story】春告げ鳥が哭いた日【完結済】

「えー、っと。久し振り?ケッコンおめでとう?って、雰囲気でもないね。何々どーしたのさ」

「……る、は」

「えー、何?なんだって?冬彦く、」

「春陽……!」

「ぐぇっ!」

潰れたカエルのような声を発した春陽を抱き締めた。強く、強く。もうどこにも行かないように。

「ちょ、待って待って!潰れる!」

「人間はそうは潰れない」

「いや、この子が潰れるんだってば」

「この子?」

身体を少し離すとそこには黒髪に春陽と同じ赤茶の瞳を持った少年が俺と春陽の間で潰されていた。
俺は慌てて身体を離し、退く。

「いやぁ、いきなりの再会だからって情熱的だよねー?ねー?春彦くん」

「ママが素直に抱き着かないから僕がパパに潰される羽目になったのです」

「春彦くんはパパ似だねぇ」

のほほんと繰り広げられる会話についていけていないのは、俺だけか。

「春陽さん……そ、そちらのお子様は……」

「んー?あたしの息子」

「俺のこと、パパって……」

「気のせいじゃない?」

「春陽」

こんなにも必死な声が出るモノなのかと少しだけ驚きながら、俺は春陽とその子を見やる。

「……いや、まあ。そういうことだよ」

「どういうことだ!?」

「皆まで言わせるの!?」

初めて聞く春陽の焦った声に、俺はひとつ思い当たる節があった。

「そう言えば、一度だけ……いや、いや、まさか……」

「……まさかなんだなぁ、これが」

一度だけ、避妊具を使わずに滅茶苦茶に抱いたことがあることを思い出して、頭を抱えたくなった。というか抱えている。

「僕はその時の子だよ、パパ」

「子供に言われると尚のこと胸が痛い……」

「まあまあ。というか、なんであたしは二人の結婚式に呼ばれたの?」

「ああ、それは……」

「春陽さん。わたくし、冬彦さんとは結婚致しませんわ」

「え?なんで?」

「世界を見たいんですの。自由に、あなたのように。それに……わたくしでは冬彦さんの心を満たすことは出来ませんでしたから」

「いやいや、でも……」

「そんなわけで、春陽さんに冬彦さんをあげますわ」

「いやぁ……要らないなぁ……」

「いや、待て。お前が要らなくても俺はお前が欲しい」

「うわぁ、パパ情熱的だね」

あーだこーだしていたら時間が過ぎて、もうすぐチャペルに向かう時間だった。
俺は春陽の腕を掴んで、そうして言った。

「春陽」

「な、何?冬彦くん」

「俺のモノになれ」

「……何それ。あっは、おかしいなぁ」

「な、何が!」

「知らなかったの?冬彦くん」

――あたしの心も、身体も、未来も。

「この再会のせいで、全部冬彦くんのモノなんだよ」

春陽のその言葉に目を見開いて、そうして俺は今度こそこの心の底から好きになった女を抱き締めた。

「あはは、苦しいねぇ」

「うるさい、でも、黙るな」

「なぁに、どっちなの?」

「ずっと傍に居てくれ……」

「うん。あたしはもう、そのつもりだよ」
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