【side story】春告げ鳥が哭いた日【完結済】
唐突だが、あたしは死ぬようだ。
黒光りする拳銃の銃口が私に照準を合わせ、あたしの頭を狙っているのだもの。
あたしに拳銃を向けている人の顔は真一文字になっている口元を除いて建物の陰で見えない。
けれども鮮やかなまでに綺麗な黒は、その人を包む姿は、視認出来る。
まるであたしの為の喪服のようだと思いながら微笑んだ。
「冬彦くん」
口の中で転がしたその名前と、眉間に寄った皺が甘やかに口の中に広がる。
「……思ったよりも、馬鹿だったようだな」
あたしを殺す死神が声を発した。
眠たくなるほどに心地好いその声は聞き慣れたモノ。
あたしは右腕を上げ、頭を撫でる。腰まであった長い黒髪は肩よりも短くしてしまった。
不意に「どんな子が好き?」と聞いてみた時に「長い髪の女」と短く答えられたから。
だから今日この日の為に、あたしは正反対の人間になってやろうと思ったの。
叶わない相手のことを想って長く伸ばした、そんな女になんてなりたくなかったから。
「そーですねー。……馬鹿ですよね、あたし」
「違う」
「はい?」
「あの男が、馬鹿なんだ」
「……ああ、」
ふ、とあたしは笑みを濃くした。
馬鹿ですよねぇ、とそう言えたなら良かったのに。
「あたしはわりと、幸せですよ」
「……そうか」
その言葉を最後に死神は黙り。
静寂の中に、カチリという音が鳴った。
(あたしはここで死ぬけれども。ねぇ、冬彦くん)
空を不意に見上げてみた。
薄明りがちらりと見えた。星が消え、月が薄まり、太陽が顔を出す前の、そんな明けの空。
水面のように澄み渡るような綺麗な空にあたしは見えた。
はじめて彼と出逢った時と同じ。
雲ひとつない、綺麗な晴れた空。
軽いモノが弾けるような、そんな音がその場に木霊した。
黒光りする拳銃の銃口が私に照準を合わせ、あたしの頭を狙っているのだもの。
あたしに拳銃を向けている人の顔は真一文字になっている口元を除いて建物の陰で見えない。
けれども鮮やかなまでに綺麗な黒は、その人を包む姿は、視認出来る。
まるであたしの為の喪服のようだと思いながら微笑んだ。
「冬彦くん」
口の中で転がしたその名前と、眉間に寄った皺が甘やかに口の中に広がる。
「……思ったよりも、馬鹿だったようだな」
あたしを殺す死神が声を発した。
眠たくなるほどに心地好いその声は聞き慣れたモノ。
あたしは右腕を上げ、頭を撫でる。腰まであった長い黒髪は肩よりも短くしてしまった。
不意に「どんな子が好き?」と聞いてみた時に「長い髪の女」と短く答えられたから。
だから今日この日の為に、あたしは正反対の人間になってやろうと思ったの。
叶わない相手のことを想って長く伸ばした、そんな女になんてなりたくなかったから。
「そーですねー。……馬鹿ですよね、あたし」
「違う」
「はい?」
「あの男が、馬鹿なんだ」
「……ああ、」
ふ、とあたしは笑みを濃くした。
馬鹿ですよねぇ、とそう言えたなら良かったのに。
「あたしはわりと、幸せですよ」
「……そうか」
その言葉を最後に死神は黙り。
静寂の中に、カチリという音が鳴った。
(あたしはここで死ぬけれども。ねぇ、冬彦くん)
空を不意に見上げてみた。
薄明りがちらりと見えた。星が消え、月が薄まり、太陽が顔を出す前の、そんな明けの空。
水面のように澄み渡るような綺麗な空にあたしは見えた。
はじめて彼と出逢った時と同じ。
雲ひとつない、綺麗な晴れた空。
軽いモノが弾けるような、そんな音がその場に木霊した。